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《ゴーストタウン》 ①

 ──作戦会議だ。


 僕とソラは、三百メートル程先にみえる長い石壁に囲まれた大門を目前にして、これからそこをどう通過するべきか、改めて話し合うことにした。当然、ここには会議室どころか、テーブルや椅子すらないので、すぐ近くの岩場に休憩も兼ねて移動することに。


 初期装備の肩掛けリュックとアライグマさんから買ったボストンバッグみたいなカバンをヨイショと地面に置いてから、ホッと息を吐く。


 正直リュックはともかく、着替えの服や当面の食料と水をパンパンに詰め込んだカバンは実に重く、道中辛かった。


 もしも今、異世界転生特典を一つもらえるのなら、断然、異空間収納のアイテムボックスだよな──と思った……いや、今更無いものねだりはやめとこう。


「私のカバン、片方もうちょっと空きがあるし、荷物もう少し持つよ?」

「え? いいよいいよ。どうせ食料なんかすぐに無くなるし、ソラは自分の着替えさえ持っててくれれば十分だ」

「ならいいけど……」


 もう、これは男の意地とプライドだ。ただ単に好きな女子の前ではいい顔をしたくなるオスの習性とも言う……ま、それはさておき、今後についての作戦会議だ。


「ところでソラ、いよいよ僕たちは第一の目的地である……ええと、カモガワアトチ? に到着したわけだけど」

「うん、そだね。でもどうしてすぐ街に入らないの?」


 岩場に腰掛け、足を揉みつつソラが聞く。運動靴の僕に対し、彼女の靴はもっぱら学校指定の上履きだ。さすがにそのペラペラな靴では、これから先マズかろうと思い、今後はソラの靴をなんとかせねば、とか考えつつ僕は話を続ける。


「ええと、これは異世界ラノベあるあるなんだけど、とにかく新しい街に到着すると、まずは入口の門番と一悶着ある」

「そうなの? ラノベって、確か漫画みたいな小説のことよね? 私読んだことが無いからよく分からないけど……」

「え? 読んだことがない? やっぱり……いや、とにかく平和な日本と違って異世界の街は入る時の審査が厳しいのが一般的なんだよ。ほら、やたらに人を招き入れたら街の治安維持とかが大変だからね。特に僕らみたいな余所者は根掘り葉掘り聞かれると思うよ。怪しい奴らめ! とか、いきなり複数の門番に取り囲まれる可能性もある」

「えっ、ホント!?」


 さすがにそこまではないと心から願いたいが、あらゆる異世界テンプレを網羅した自分としては、最悪、何が何だか分からぬまま街の衛兵に連行され、そのまま牢獄に投獄される未来まで想定済みだ。そこからいかにして脱獄するかは、まだまだ検討中だったりする。


「そ、それでユウ、私たちどうすれば……このまま引き返す、の?」

「いや、取りあえずは、今着ている服をここで着替えよう」

「何で?」


 ポカン顔のソラに対し僕は熱く語る。日本の制服姿が如何に異世界で怪しいのか、幸い僕らには現地調達した服がある。異世界の服装さえしていれば多分万事解決──それは異世界転生に置いての基本中の基本だということを彼女にレクチャーした。


 まだ納得いかないのか、あからさまに不満気に大きな石の物陰でゴソゴソ着替えるソラ。その衣擦きぬずれの音が妙に僕の耳に焼き付いてしまった件、この先ソラには絶対黙っておこうと密かに胸の奥で誓った。

 


 そして、新たな衣装(ソラはコバルトブルーの修道服みたいなデザインのワンピース。僕は動きやすさを重視したブルゾンぽい薄緑の作業服)を身にまとった僕らは意気揚々と石畳の道を歩き、街の入口である長い石壁に囲まれた大門へと向かった。


 ちなみに僕ら二人は仲の良い姉弟、という設定にした。どうして自分が弟なんだよ、とソラを問い詰めたら、彼女には妹がいて、普段から姉として振る舞っているから演技しやすいとのこと……ま、仕方ない、今回はそれでいいよ。




 ──で、結果的にどうなったかというと、僕らは街の入口を特に何事もなく通過できた。


 というか、そもそも街の入口に門番など一人もいなかった。さらに大門は固く閉ざされていて、僕の力では押しても引いてもまるでビクともしなかった。


 なら、どうやって僕らは街の中に入れたかというと、ただ単純に街の入口である大門のすぐ横に小さな鉄の扉があって、そこは特に施錠はされておらず、だから難なくそこから通過出来たというわけだ。


 ……つうか、僕の作戦意味なくない?





「……ここって一応、カモガワ? という街なんだよね?」

「だと思う……」


 入口の前で思わず棒立ちになる僕に対し、ソラは意外と冷静に周囲を見渡している。


 果たしてそこは街と呼ぶに相応しくない、古びた建造物がずらりと並んだ景色が広がっていた。


 しかもそれらの殆どが既に取り壊し寸前で、唯一原型を留めているいくつかの建物ですら、皆がどれも朽ち果てていて、とてもじゃないが人が住んでいる気配がまるで感じられない。


 小さなおじさんやアライグマさんの忠告をまるで理解していなかった。まさしくここはゴーストタウンだ。



「……誰一人いないね」

「うん……」


 とりあえず僕らは、街の道沿いにそって歩き始めたけど、進むにつれ、自然と互いに口数も少なくなり、時折、生い茂った草を掻き分けボロボロな木造の家屋の中を勝手に二人で覗き見をしたけれど、そこは人の姿どころか家財道具とかも一切なく、しかも床や天井が今にも崩れ落ちそうで──そんな探索すら何も成果もないまま、ただ時間だけが過ぎていった。


「あのね、ユウ……」


 ここにきて、常に受け身だったソラが珍しく自分から口を開いた。ここでは珍しく原型を留めた二階建ての家を見つけたので、思い切って中に入り、恐る恐る軋む階段を登り上を探索していた時だった。


 彼女には「危ないから外で待っていて」と言っておいたのに、いつの間にか僕の後をついてきていたみたいで、今は窓の外を眺めながらしきりに僕を手招きしている。


「ソラ、足元に気をつけなよ。バタバタしてると床が抜けちゃうからさ」

「うん、気をつける。でもユウ、あの丘の上に何だか鳥居みたいなものが見えるの」

「鳥居?」


 まさかファンタジーの異世界にそんな日本ちっくなものがあるわけが……と思い──半ば半信半疑で「どれどれ」とソラの隣に立ち窓の外を覗いてみたら、本当にあるよ。遠くの丘の上に神社の入口にあるような立派な鳥居らしきオブジェが──急いで下に降り、その際腐った床に片足を突っ込んで、ソラに「ユウこそ気をつけてね」と皮肉を言われつつ、何か手掛かりがあるかも、と、僕らは早速その丘を目指して進むことにした──

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