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ふたりだけの世界。② 〜柊美空の場合


 私、柊美空ひいらぎみそらはポンコツだ──。



 頭が悪い。


 運動が出来ない。


 人の話すらまともに理解出来ない。場の空気を乱す能力だけは人一倍。だから高校に至るまで、友達一人も出来やしない。常にボッチ。ますます人とのコミュニケーション能力が退化する。


 だから私は勉強を頑張った。


 例えいくら頭の出来が悪かろうが、体力云々の運動と違って学力だけは努力次第では何とかなるかもしれない。単語、文法、公式──これさえ丸暗記出来れば、大抵のテスト問題は解けてしまう。


 但し、現代国語だけは不得意だった。漢字、四字熟語とかだったら、丸暗記で楽勝だったのだけど──「この時、◯◯は、どう思ったかを述べなさい」的な問題だけは未だ苦労する。


 創作上の登場人物の考えなんか私にはまるで分からない。それこそ書いた作者本人にしか知り得ないだろう。何故そんな解答不能の難題をえて現国のテストに含めてくるのか、全くもって意味不明だ。


 それでも努力のかいもあってか、私は中学を卒業と同時に有名な進学校に入学した。この学校は受験科目を重点とする学風なので、体育や技術といった煩わしい授業が減り、大学進学に向けた勉強だけに集中出来るのが嬉しい。


 それに伴い高校入学と同時に若干だけど自分の見た目にも気を配ることにした。


 メイクは手先が不器用なため苦手だったけれど、ネットの動画を参考にして何とか形にしてみた。短かった髪も思い切って伸ばし始めた。ストレートの髪質も相まってか、我ながら綺麗きれいな黒髪だと思う。


 それこそ勉強も中学以上に頑張った。テスト順位は常に上位をキープしている。それなのに私はクラスで孤立していた。今までと同じボッチなままだ。高二となった今でも変わらない。それだけは努力ではどうにもならなかった。


 それに元々私はあまり他人が好きではないらしい。だからクラスの誰かに話しかけられても常に本音を語ってしまい、わざわざ自分から遠ざけてしまう。まさに社会不適合者だ。


 だから私が一人前に友人を持とうと考える自体、根本的に間違いだと思う。


 こんな私でも自分が気を許す家族にだけは自然体でいられた。言葉も態度も柔らかくなる。


 かくいう私を含め、お父さん、お母さん、妹──皆がとても仲が良い。


 そもそも私自身、かわいい妹の事が大好きだし、両親にだってまだまだ甘えたりない。


 子供の頃から何も変わっていない。


 いくら勉強を頑張ろうと自分の本来の姿は、やはりポンコツのままなのだ──。



◇◇◇


「──くふふ」


 森の奥。


 生い茂った木々の隙間から垣間見える薄暗い空を眺めながら、私はせせら笑う。


 隣にいる彼、南雲君も自分と一緒になって笑っていた。


 赤く光る月が二つ。


 さすがに馬鹿な私にも分かる。ここは日本でない。どこか別の世界だ。


 多分彼もそれを理解している。だから絶望のあまり、笑うしかないのだろう。


 でも……私は違う。


 私は自分の運命を呪っての笑いだ。これでは今まで何のために勉強を努力してきたのかが分からない。すべてが無駄になってしまった。


 もうすぐ日が完全に暮れる。


 こんな周りに住宅も店も街灯も何も無い森では、すべてが暗闇に覆われるだろう。


 もしもここが日本のどこかでも、今の状況自体、完全に遭難だ。自力で森を抜けれないのであれば、後は救助を待つしか私たちには助かる道は無い。


 しかし、私たちがいる場所は安全が保証された日本ではない。あの空に浮かぶ二つの赤い月がそれを物語っている。


「うっ、うっく……」


 涙が溢れてきた。


 情報処理能力が追いつかなくなった証だ。


 私の低スペックな脳みそは、もう限界値をとっくに越えている。


「だ、大丈夫?」


 そんな時、南雲君が心配そうに私に声をかけてくれた。多分私を慰めているつもりだろう。でも、放っといてくれと思う。


 元を正せば、彼が私をあんな鏡の前に呼び出したのが原因だ。手紙なんか無視すれば良かったと思う。


 もらった手紙の内容から、何となく彼が私に告白してくる予感がした。何で自分なの? と思いもしたが、そんな物好きな彼に敬意を抱いてあの場におもむいたのが、そもそも間違いだった。


 元々私は誰とも付き合う気がない。未だかって友達の一人もいない自分にまともな男女交際が出来るはずがない。


 こんなポンコツ誰が好きになる?


 南雲君だって気の迷いで私に告白したに違いない──。


 でも。


 悲しくて。


 とても不安で。


 寂しくて。


 だから。


「──ごめんなさい」


「……え?」


 彼の背中にしがみ付いてしまったんだ──。

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