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21.〜普通な俺とこちらの猫と、最愛の人〜


時の流れは、早い。


よく年寄りたちは話していた。

若いうちに色んな事を学び、挑戦し、そして失敗し......。

何度も繰り返す事によって、人生は最高なモノになるのだと。



「けーんちゃーん!!」

「おう、希菜!おはようさん」

「うん、おはようさん!!」


もう何年前になるのか、薄気味悪く光る街灯の元にいた1匹の猫との出会いで木下健一の人生が大きく変わった。

15歳年下の当時大学生だった同居人との出会いには、今でも感謝している。

同居人との出会いがなければ、今の自分はいなかっただろうと言っても過言では無い。


「大ちゃんは?」

「まだ、寝とるよ?」

「えー、折角、お披露目に来たのにー!!」


そう言いながら縁側に座り、ブツブツと文句を言っているこの女性に出会った時は、まだランドセルが似合っていた少女だった。だが、今は真新しいスーツに身にまとっていた。


「希菜、朝からうるさいよ?」

「あぁ、大ちゃん、やっと起きてきたんやね」

「......今日、何かあったけ?」


やっと同居人のご起床だ......と、木下は笑顔になった。そして、希菜と話すその姿を確認すると、台所へと行ってしまった。


「もぉ、昨日言ったやん?」

「あぁ、大学の卒業式!!」

「正解!!」


瀬戸内と希菜の楽しそうな会話を聴きながら、ゆっくりと珈琲を入れる木下の足元に、1匹の猫が擦り寄ってきた。


「にゃー」

「おはよー、こんぶ」

「にゃうん」

「あはは、そうやね、今日は一段と賑やかやね?」


木下が話終えるとこんぶはもう一度、みゃ!と短く鳴いた。



「あの希菜がもう、大学を卒業するとはねー」

「ホンマ、時の流れは早いな」

「もぉ、けんさん?」

「な、何や?」

「最近、年寄りくさい!!」


木下が50歳を迎えたその年に、長年住んでいたアパートから小さな庭付きの一軒家へと引越ししていた。

徒歩圏内での引越しだった為、当時は色んな人が手伝いに駆け付けてくれた。

その中には、木下の兄や上司そして瀬戸内の義理の弟がいた。


「仕方ないやん、あと少しで還暦なんやで?」

「そうは言っても全く見えませんけどね?」

「そう言ってくれるんは、大輝だけや」

「ホンマですよ!?」


いつもの休日。

のんびりと陽の当たる縁側に座り、他愛もない話をしたり、お互い本を読んだり......。

木下はこのなんでもない時間がいつの間にか、大切な人と過ごす時間となっていた。


「ゴロゴロ」

「何や、こんぶ?」

「こんぶ、俺の目を盗んでけんさんに甘えるなんて!!」

「あはは、こんぶに嫉妬せんでもええやんか」

「あかん、今はけんさんと俺の大切な時間なんです!!」


瀬戸内にとってもこのなんでもない時間が、自身と同じ時間なんだと知った時、木下は急に目頭が熱くなった。

そんな木下に気が付いていない1人と1匹は、どちらが木下の膝を独占できるか、言い争っていた。いや、人間と猫が言い争う事など出来ないが、何故かこの1人と1匹は出来るみたいだ。


「ほら見てみろ!!けんさん、泣いてるじゃないか!?」

「にゃー、にゃー!!!」

「え、けんさん!?本当に泣いてる!!」

「え、あ、これはちゃうから!!」


やっと気が付いた瀬戸内達は、何故泣いているのか焦り始めた。

そんな光景に、これもまたいつもの事と、木下は思っていた。



「で、もう、大丈夫なんですか?」

「うん、もう、へーきやで?」

「......本当に?」

「あはは、今の大輝、こんぶにそっくり!!」

「え、俺が!?」


あの後、俺は大人だし......と言っているかの様にこんぶはスっとどこかへ行ってしまった。その隙をついて瀬戸内は木下を後ろから、そっと抱き締めた。


「はぁ、笑ってるし、本当に大丈夫そうですね?」

「年を取ると、涙脆くなっちゃうんだよ」

「もぉ、年、年、年!!って言わないで下さい!!」

「あはは、ごめんやって」

「けんさんには、長生きしてもらわないと、困ります......」


木下は、背中から鼻をすする音が聞こえ、瀬戸内が泣いているのだと分かった。


『ずっと、傍に居たいです!!』


いつだったか忘れたが、ある日の晩に言われた。

瀬戸内が自分に抱く想いが何なのか、薄々気が付いていたが、あえて無視をしていた。別に自分に向けられるその想いが嫌だからという訳ではない。


『ただ、傍に居たいんです......』

『ずっとって、いつまで?』

『......え?』

『人は、永遠なんてない。いつかは別れなあかん日が来る、それでも、大輝はええん?』

『ーーー』


なんて意地悪なんやろうと木下は思っていた。あの頃は、瀬戸内はまだまだ可能性に満ち溢れていた。15も年上の自分の傍ではなくもっと色んな事を経験して欲しかった。

そんな思いを込めて言った木下に瀬戸内は......



「何て言ってくれたんやっけ?」

「......え?」

「うーん、あの日、大輝は俺に何て言ってくれたんやっけ?と思って......」

「......思い出さなくても、良いです」


思い出に深けていた木下の呟きが聞こえたのか、瀬戸内が聞き返したが、相当恥ずかしいのかまた木下の背中に顔を埋めてしまった。


「まっ、えーか」


きっと今のこの関係があるという事は、木下の心を大きく動かしたに違いない。


「......けんさん」

「何や?」

「けんさんにとって、俺はずっと子供のままなのかもしれません。ですが、そんな子供な俺でもずっと傍にいても、良いですか?」


不安に満ち溢れた声音で話す瀬戸内に木下はきっと前までの自分なら、大人を揶揄うな!と笑って言っていただろう。

だが、今は相手の事をこれっぽちも子供だなんて思っていない。

でも、そのまま言葉にするのも気恥しいと下を向いた時、1冊の本に前足を乗せてジッとこちらを見ているこんぶと目が合った。


「(あ、そっか、この言葉なら......)」

「にゃーん」

「(ありがと、こんぶ)」

「......」


想いが通じたのか、木下ともう一度視線を合わせるとどこかへ行ってしまった。


「星が、綺麗ですね......」

「はい、綺麗ですね」


木下のその一言に瀬戸内はそう返した。


「てか、意味わかっとるん?」

「勿論ですよ!?あれでしょう、あなたは私のー」

「わぁ!!言うな言うなー!!」

「あはは、けんさん顔、真っ赤!」



いつもと変わらない生活を送っていた、普通な俺。

夢ではなくいつも傍にいる、こちらの猫。

突如現れ今では愛しい、隣の人。


いつどんな事が起きるの分からない。



縁側から見える暖かな夕日は、

これから共に歩んでいくそんな2人と1匹を


優しく照らした。




木下、瀬戸内のお話を最後にしようとしていましたが、

やっぱり最後はハッピーで終わりたいと願った、

作者の願望で数年後のお話を書かせて頂きました!!!



おっと!!

長々と安江話にお付き合いありがとうございます。



これにて、


【普通な俺とこちらの猫と隣の人】


とう言う舞台は終演でございます。


ここまでお付き合いしてくださり、

本当にありがとうございました!!!


そして、最後になりましたが、

安江にたくさんのネタ提供してくれた大切な友よ、

ホンマに、おおきにありがとぉ!!!!


安江

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