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年末年始は流石の木下も仕事は休みだ。


「どのチャンネルも、新年、新年ばっかでおもんない!」

「あはは、仕方が無いですよ、世の中は三が日、真っ只中なんですから」

「にゃー」


そう言われてしまっては何も言い返せない木下はこたつ布団の中に潜ってしまった。ついでに、僕も!とこんぶも一緒に潜ってしまった。


「潜らないってお約束!!」


そんな2人に、もーう!!と瀬戸内に思いっ切り四方の布団を捲られてしまった。寒いー!と木下とこんぶは身体を同じ様に丸めたが、容赦しない瀬戸内は起き上がるまで布団を下ろす事はなかった。


「もう、大輝のせいでこたつの中が冷え切ってもうたやんか!」

「けんさんが潜るからでしょう!」


木下は不貞腐れ顔をテーブルに置くも、目の前に皮を剥いたみかんが差し出されると、身を乗り出しそのま口の中に入れ、美味しいな?と向かに座りせっせとみかんの皮を剥いていた瀬戸内を見るも、何故か下を向いていた。


「大輝、どないしたんや?具合でも悪んか?」

「……い、いえ大丈夫、です」

「そうか?なぁ、もう1個ちょうだい!?」


そう言うと瀬戸内に向かって口を開ける木下に、無自覚かよ!と相手に聞こえない小さな声で呟き、丸々一個を木下の口に押し込んだ。


「大輝!!」

「けんさんが、悪いんです!!」


言い合う2人の飼い主に、またやってるよと呆れて欠伸しか出ないこんぶは、やっと温もってきたこたつの中に静かに入っていった。



「ひ、久しぶりです……」

「……うん」

「兄ちゃんから聞いてたけど、最近、仕事辞めたって......」

「……うん」

「……」


3月上旬、木下は約15年振りに母親と面と向かって話していた。

木下にとって3月は大切な人を喪った月の為、絶対に墓参りにだけは毎年欠かさず来ていた。だが、今年は奏斗から一度は実家に帰って来い!と先月2月の頭から言われ続け、直ぐに応えを出さなかった木下を見兼ねて瀬戸内が、


『辛いんでしたら、いつでも帰って来ても大丈夫ですから、行ってあげてください?』


という言葉と共に優しく背中を押された。そして、特別に!と奏斗の車で実家に帰る事になったが、約2時間こんぶの話で車内は盛り上がり、いつも地元に帰る際に感じていた苦しさを感じることは無かった。

そしてその気持ちのまま母親と今こうして話をしているのだが……


「奏斗から話だけは、聞いた。元気にしてるって……」

「……うん」


母と息子との会話はどこかギクシャクしているが、木下は昔よりかは話せていると実感していた。

他にも色んな話がしたかった。だが、お互い昔の癖が残っているのか、今までどうしてたの?仕事は何しているの?等の話題は一切母親からは出て来なかった。

そして、2泊3日の里帰りは呆気なく終わったか......と帰りの電車を待つ間思っていた木下に、一通のメールが着た。


【けんちゃん、おばあちゃんのお墓参りお疲れ様でした。

久しぶりに会って話が出来て凄く嬉しかったです。

もっと色んな話がしたかったけど、けんちゃんを目の前にしたら言葉が全く出て来なくて……

たまにで良いので、メールをしてくれると嬉しいです!

お母さんもけんちゃんの邪魔にならない程度にはメールを送ります!】


まるで感想文みたいなメール文に、変わってないなと首に巻いていたマフラーの中でそう呟き、ずうっと鼻を啜ると、帰りを待っている1人と1匹の為に木下は電車に乗り込んだ。



木下が実家から帰って来た後は、慌ただしく日が過ぎ去って行った。


「けんさーん!」

「もぉ、ネクタイくらいちゃんと結べる様にならあかんで?」

「えへへ、けんさんが居てくれるので、当分は良いです!」


3月中旬、瀬戸内が通っている大学の卒業式の日が訪れた。朝からネクタイを結ぶのに苦戦している瀬戸内に悪態を吐く木下は、真新しいスーツ姿にまだまだスーツに着られてるなと笑いそうになっていた。


「ほら、出来たで!」

「おぉ、流石です!!」


手早くネクタイを結ぶ姿に歓喜の声を上げる瀬戸内に急に恥ずかしくなった木下は、早く行け!と背中を押した。


「行ってらっしゃい!」

「にゃー!!」

「けんさん、こんぶ、行ってきます!」


玄関まで見送りに来ていたこんぶの頭をひと撫ですると、瀬戸内は弾ける笑顔で手を振った。


「さて、俺らも出掛ける準備しますか!」

「にゃおん!」


とは言っても今まで家の事は瀬戸内に任せっきりだった為、掃除や洗濯をするのにもどこに何があるのか探し出すのに一苦労した。だがなんとか済ませ、来月から来る新入社員への資料制作などを終わらさなければいけない事が山の様にあった。


「にゃー」

「あぁ、ごめんやで?もうちょいで終わるからな?」


まだ、お出掛け出来ないの?と言っているかのように木下に向かって鳴くも、まだと言われ少し不貞腐れたのかこんぶは自身の寝床へと戻って行った。


「うーん、終わったー!」


と固まった身体を伸ばす木下に、やっとお出掛け!と小走りで来たこんぶを見てお待たせ!と抱き締めると、お疲れ様!と弾んだ声でにゃー!と鳴いた。


「さて、行きますか!」

「にゃー!」



今月で丁度一年になるこんぶは、成猫と言うには若く、子猫と言うには大きく、大人になるには後一歩の所にいる。簡単に言えば、人間の18歳辺りの年代なのだ。身体の大きさは成猫とほぼ変わらず体重も4キロ近くもあり、木下の肩に軽々と乗ってはいるが、実は木下本人は重いと思っているも声には出さずにいる。


「ほら、ハーネス着けるから降りて?」


先月2月から暖かくなったら散歩をしよう!と決めていた木下と瀬戸内は、徐々にハーネスに慣れさせる為にと内田から色々と教わっていたが、1週間ほどで誰も教えていないのにも関わらず、こんぶは自分でハーネスを咥え玄関まで行く様になっていた。だが、今年は例年以上の大寒波に見合われ散歩には行けず、暖かくなってからな?と毎日の様に言われ続けられていたこんぶは、やっと外へ散歩に行ける事を知り軽快に肩から降り自身でハーネスを木下の足元に置いた。


「なんや、猫じゃなくて犬みたいやな?」

「……?」


いぬってなーに?と言いたげに首を傾げるこんぶは、答える事も無く黙々とハーネスを着ける木下の、完成!という声で一目散に玄関へ走って行った。



「取り敢えず、目的地着くまでは抱っこな?」


玄関を出て直ぐに抱っこをされ少し不服そうなこんぶの姿に、申し訳なさ半分と可笑しさ半分といった何とも複雑な顔をしている木下に、


「けーんちゃーん、こーんーぶー!!」


希菜が大きくそして高く手を振りながら走り寄ってきたのが嬉しいのか、それとも自身の名前を呼ばれたからなのか、先程まで垂れていた耳をピンと立て希菜の声がする方に顔を向け、きなー!!とこんぶ自身も呼んでいるかのように長く鳴いた。


「どこ行くん?」

「桜を見に、公園に行こうと思って」

「公園か……」


何かを悩み始めた希菜に暫く待つと、


「今、公園な人めっちゃ多いで!?」


食い気味に言う希菜に木下は圧倒され1歩下がるも、こっち!と手を引かれ連れて来られた小さな雑木林。奥へ進むとそこには中央に1本の大きな桜の木が光に照らされていた。


「ようこんな場所、知っとったな?」

「ふふっ、ここはうちのじいちゃんが管理しとる場所やで、内田家以外は立ち入り禁止なんや!」


希菜は得意げに話すも木下は、大丈夫なんか?と心配でならなかった。


「じいちゃんには言ってるで平気!!うちの大切な人は出入り自由にしてもらってるから!!」


大切な人……と呟く木下に希菜は、せやで!!とにこーっと笑っている姿はまるで、ヒラヒラと舞降る桜の花びらの様に可憐で優しかった。



どれ程の時間を過ごしていたのか、気が付けば白く暖かな光を浴びていた桜の木はオレンジ色に照らされていた。


「そろそろ、帰りましょう?」


誰かが近付いて来る足音を聞きながら木下はまだ動き足りていないこんぶを眺めていた。


「……うん、おかえり」

「はい、ただいまです」


瀬戸内は木下の隣に腰を下ろしヒラヒラと落ちてくる花びらを、必死に掴もうとしているこんぶを一緒に眺めた。


「なぁ、大輝?」

「何ですか、けんさん」


前を見たままの2人の足元にはほんのりと暖かい夕日が照らされていた。


「これからも、俺と一緒にこんぶの育児、手伝ってくれへんか?」

「い、育児って!!」


木下は至って真面目になんなら大真面目に言ったつもりだったが、どうやら瀬戸内には育児と言う言葉で笑いのツボに嵌ったらしく腹を抱えて笑い出した。


「しゃ、しゃーないやろう、育児以外になんて言えばええんよ!?」

「いや、あー、うん、けんさんはそのままで良いです、あはは!!」


笑うなー!とムキになって怒る木下に更に笑い出す瀬戸内。2人の飼い主の姿に気が付いたこんぶが駆け寄って、どうしたの?と言っているかのように鳴くと、2人は怒るのも笑うのも一旦止めてこんぶに視線を移すと、2人同時に声に出して笑い始めた。


「こ、こんぶ!それはアカンやろ!?」

「あはは、こんぶ、何付けてるの!?」

「みゃう?」


笑いながら木下はこんぶの身体に着いている花びらを払い落とし、最後に桜の花がそのままの形で耳の辺りに乗っているのを取ろうとした時、瀬戸内が写メ撮りましょう!とスマートフォンをこんぶに向け、はい、チーズ!と言ったのと同時に、イエーイ!と嬉しそうにひと鳴きした。




「大輝ー、早う起きな、間に合わんでー!?」

「いやいや、けんさんが早過ぎなんですからね!?」

「アホか、新人は30分前行動が基本や!!」


4月上旬、連日の桜予報で持ち切りのニュースキャスター達が、行ってらっしゃい!と手を振っているのなんて見ていない2人に変わって、こんぶが、いってきまーす!と代わりに鳴いている声でやっと焦り始めた瀬戸内に、ほら言わんこっちゃない!といつものブラックコーヒーを飲んでいる木下。


「あぁ、けんさーん、ネクタイ!!」

「はぁ、あんだけ練習しとったのに、まったくもう!」


今日から社会人になる瀬戸内に、社会人たるものどうあるべきか!?とグチグチと言っているが瀬戸内の耳には全く入っていなかった。


「お前な、聞けよ!?」

「はいはい、そのうち聞きますから、取り敢えず今は急いで!!」


慌ただしく玄関に走っていく飼い主達の後を追い掛けるこんぶは、邪魔にならない所で靴を履き終えるのを待ちそして、


「にゃぁ!!」

「あはは、留守番頼んだで、こんぶ!」

「うん、頑張ってくるね!?」


交互に2人に頭を撫でられ満足そうな顔をしもう一度、行ってらっしゃい!と言っているかのように元気良く、ひと鳴きすると、


「「行ってきます!!」」


と飼い主達は、今日と言う1日へ駆けて行った。




「……」


誰も居なくなったリビングをグルリと見渡し何かを見付けたのか、ピタリと動きを止めてリビングの端をこんぶはジッと見詰めた。


「にゃ、にゃ、にゃー」


誰かと話しているかの様に短く、時々長く鳴き続け、何かを追い掛けるかの様に目線を漂わせ、何かを捕まえようと後ろ足だけで立つとそのままの姿で、もう一度同じ様に鳴いた。


「……にゃうん」


そして、何か満足したかの様にそう鳴いたのを最後に、大きく欠伸をしながら前後に身体を目一杯に伸ばし終えると、この家で1番日当たりの良い窓の近くに寝転んだ。


「......にゃお」


と誰かに甘える時に出す声で鳴くと、ゆっくりと瞼を閉じた。



この度は、


【普通な俺とこちらの猫と隣の人】


全18話を読んで下さりありがとうございました。


もし良ければ、

高評価、いいね、そして感想を頂けたら光栄です!!

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