待ち望んでいた婚約破棄
「アリシア・ペンドラゴン、お前との婚約を破棄する!」
ダミアン・バローダ第一王子が私に向けて声高らかに宣言した。彼の横ではオリザ・サーペント公爵令嬢が勝ち誇った笑みを浮かべている。
今日はバローダ国立学校の卒業式。卒業生代表挨拶としてダミアンとなぜかオリザが壇上に上がった後、突然私に向かって婚約破棄を宣言したのだ。
やったわ!あのダメ王子から婚約破棄!これで解放されるわ!
私は心の中でガッツポーズをする。
「そうですか。ちなみに国王様の許可は取られておられますか?」
あくまで冷静に平坦に聞こえるよう、私は問いかける。
まだ本番はここからよ。心の喜びは隠し通さなければならないわ。
「もちろんだ!今、私の横にいるオリザと婚約したいとお願いしたら、快く許可してくれたぞ!」
なんて素晴らしいことなのかしら!ありがとう、ダミアン。今のあなたは天使そのものよ!今までダミアンのダは駄目のダ、とばかり思っていたけれど、堕天使のダだったのね!
「そうですか。では婚約破棄を条件に、一つお願いがございます」
「なんだ。言ってみろ」
本当に尊大な態度だ。こんなやつが2年後国王になるなんて、考えるだけでも末恐ろしい。
「このままですと、ダミアン様の名前を聞くだけで胸が苦しくなってしまいます。そこで他の国に、ダミアン様の名前を聞かなくていいよう、嫁ぎに行きたいのです」
私は心にもない事をペラペラと言った。
そうして私は移動に一月はかかる、遠い南にあるザンバル王国のクライン・ザンバル第三王子に嫁ぐこととなった。
***
「私、許せません!アリシア様がわざわざ別国に嫁ぐことになるなんて!」
ザンバル王国に移動する馬車の中で、侍女のマリーがプンスカ怒っている。
「いいのよ。私が望んだことだし」
「それはオリザ公爵令嬢がダミアン王子のことを略奪したからでしょう!?それにペンドラゴン公爵様も、お嬢様がこんな目に合われたのにほとんど何もしてくれなかったじゃないですか!」
相変わらずマリーはプンプンしている。なんだか小動物みたいで可愛いわね。
「そうなんだけど……そうじゃないの」
「えっと、どういうことでしょう?」
まあマリーになら話してもいいか。
「私たちのバローダ王国、そろそろ滅びるかもしれないのよ」
「なんですって!!」
マリーはとても大きな声をあげる。私はあわてて「静かにね」と人差し指を口元にあてる。
「で、でも滅びるなんておかしくないですか?今の国王陛下もまだまだお若いですし、二年後にはダミアン王子が国王になると決まっているとか」
「その、二年後ダミアンが国王になるのが問題なのよ」
私はため息をつく。正直あんなやつのこと思い出したくもない。
「普通国王になるのはどんな人かしら?」
「えっと、賢く聡明で経験豊富な人とかですか?」
「そう。まずダミアンはどう考えても賢く聡明ではないわよね?それに二年後のあいつは20歳になったばっかり。とても経験豊富とは言えないわ」
ダミアンの学校の成績はワースト10位以内を全て達成しており、剣術は女の私にも負ける。もはや尊敬の領域ね。第二王子のハロルドも優秀とは言いにくいけど、ダミアンと比べると断然ましだ。
「で、でもたくさんの貴族様がダミアン王子を次期国王に推薦してるんですよね?我がペンドラゴン家も推薦したと聞きました。そういった貴族の助けがあれば、なんとかやっていけるのでは?」
「その貴族の推薦が駄目なのよ」
間違いなく王に向いているのはハロルド第二王子だ。しかし貴族がダミアンを推薦する理由はただ一つ。
傀儡にして自由に操りたいからに決まっている。
「では、本当にバローダ王国は……」
「あくまで可能性よ」
心配いらないわ、とマリーを安心させる。実際、傀儡政治になったからといって国が滅びるわけではない。それによって内部分裂が引き起こされてしまうことで滅びる可能性があるのだ。
まあ、バローダ王国で内部分裂が起きないかと聞かれると、答えはNOだ。ダミアン王子を私から略奪したと思っているオリザさんのサーペント家と私のペンドラゴン家は古くから対立関係にある。オリザさんがダミアンを略奪した理由もそこにあるのだろう。
まあ知ったことではないわ!私は知らない土地で自由に生きるのだから!
***
「アリシア、君の両親から手紙が届いたみたいだ」
私の夫、クライン・ザンバルが私に手紙を渡す。
この国に来てから五年が経った。クライン第三王子は寡黙で何考えているか良くわからない人だが、一緒にいてとても居心地が良い人だった。
渡された手紙によると、ペンドラゴン公爵家とサーペント公爵家のそれぞれの派閥で国が二分化し、これから内紛が始まるから兵を送ってほしいと書いてあった。
この手紙が来るまで一月かかっているのだから、今さら援軍なんて送っても意味ないわよね。きっとそうだわ。別に助けたくないわけじゃないからね。……たぶん本当よ?
私は手紙を読み終えた後、くしゃくしゃに丸めて暖炉の中に放り込んだ。
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