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9 自称嫁子と部族の掟

 我が家の食堂は、さわやかな朝だというのにどうにも重苦しい。

 ついでにいうと胃の辺りも重苦しい。なんならキリキリ痛む気がする。


 双子は自室で大人しくしておくようエリーが連れて行ったんだが、戻ってきた彼女の表情がなんというか、キレイ。うん、白磁の人形のようにキレイって思った。


 そして隣に腰掛けたとたん発せられたエリーの闘気というかなんだろうこれ? とにかくこわい。そして笑顔。こわい。


 しかし「嫁に来たよ」って。ずいぶんカジュアルに重いことを言ってくれる。


 食堂の机には三人が腰掛ける。俺の隣にはよくない波動を出しちゃっているエリー。狐人族(こじんぞく)の女性は俺のちょうど向かいにニコニコと腰掛けている。名はミミというそうだ。


「狐人族の女にはね、(つがい)以外にハダカ見せちゃダメって掟があるんだー。だからさダンくん、責任取ってウチと番になって?」


 前置き無しに用件を切り出すのは好感度高い。ぶっちゃけ嫌いじゃないぞ。

 もっとも、用件そのものに相当問題があるが。


「いや、普通に無理だろ」

 返事が気に入らなかったのか、ミミは立ち上がって憤慨した。


「なんでさ!? ウチのハダカみたじゃん! ぜんぶ!」

「あれは助けるために仕方のなかったことだ。それにその恰好(かっこう)。今でも似たようなもんじゃないか」


 ミミはチューブトップにホットパンツという出で立ちだ。裸と大差ない気がするのは俺だけだろうか。


「はあぁ!? ぜんっぜん違うし? おっぱいも股もバッチリ隠れてるし?」


 股とかいうな、はしたない! そしておっぱ……胸を持ち上げるな、何アピールだよ! 下から見えるだろうが!


「ん? なに気になるー? また見せてあげよっかー?」

「へぇー、ダンさんったら戦場でなにをされていたのかしらー? 興味あるわぁー」


 エリーさん、瞳から光が失われていますよ大丈夫ですかー? それに現場の状況ご存じですよね? 俺になんか過失ありましたっけぇ!?


「すまんエリー、今は混ぜっ返さないでもらえるとありがたいんだが。……それに番の話はミミ、あくまでお前の部族のしきたりだろ? なんで俺までそれに従わないといけないんだよ」

「どうしてもだめかな? ダンくん」

「無理だな。諦めてかえ」

「なら」


 そう言い終わるが早いか、小さなナイフを抜き放つと首を狙ってきた。速い。が見えてる時点で防御は可能だ。彼女の意外に細い手首を抑える。それだけで一切動かせなくなったのに驚いたのか、彼女の表情が驚愕にゆがむ。


「おいおい何だよこりゃ。穏やかじゃないな」

「ちょ、あなた何して」

「お願い死んで。でないと里にも帰れない」


 言い募る彼女への返答として、まずは手首を握る手に力を込める。

 彼女はひとつ呻くとナイフを机の上に取り落とした。エリーが素早く回収。できた聖女様だ。


「やれやれ。狐人族とは邪魔となれば命の恩人すら排除するような野蛮な部族だったのか」

「うっ。……それは」


 握った手を離してやると相当痛んだのか、気遣うようにさすりつつバツが悪そうにつぶやく。


「おまけに罪のない人族を手に掛けたとなると……次は戦争だぞ。集落は焼かれ皆殺し。運よく生き残ったとしても親兄弟はもれなく縛り首。残った者も奴隷落ちかな。ああ、まったく残念だ」

「……う」

「う?」

「う、うええ。ふえええん! もうムリやだぁ!」

「おい、ちょ、ちょっと」


「あーあ泣かせちゃった」

 うっせエリー、そんな言う暇あったらフォローしろっつの。


「うえええん、ならウチどうすればいいのぉ!? 番になれないじゃん? 里にも帰れないじゃん? したら独りぼっちじゃん? 秒で襲われるし。即奴隷コースだし! もうムリ、ここで死ぬしかー!」


「あーもーちょっと待て、まーて! わかった、わかったから」

「え? 娶る気になった? ハラます気になった? ウチならいいよいつでも!」


 変わり身はええだろ。あと後半は俺にはセンシティブな話題だ、気をつけろ。てか尻こっち向けんな尻尾ふりふりすんな服脱ごうとすんな!


「ああええと、最初に言っておくが俺はまだ誰とも結婚する気はない。だがそれだとミミが路頭に迷うことになる、と」


 うんうんと涙目のミミが頷く。……はあ。ホント俺、お人よしだよなぁ。


「あーそこでだ。花嫁修業中ということで。ウチで冒険者稼業しつつ暮らすってのはどうだ? そうすりゃ里にも言い訳が立つだろ。ほとぼり冷めたころに帰ったら案外見逃してくれるんじゃねーか?」


 最後は希望的観測だが、こんなことで親が子を捨てるとは思えない。きっと大丈夫だろう。


「ここに、置いてくれるってこと? わぁい、ありがと! じゃあまずはぁ、ダンくんの情婦(オンナ)から、ってことだねっ? うん、ウチがんばるよ!」

「お前絶対わかってねぇだろ? それにさっきから、なにが『ダンくん』だっ」

「んー? ダンくんはどっか見ても『ダンくん』じゃん? ね、それよかちゅーしよ、ちゅー」


 抱き着いてくるミミを軽くにらんでやるがどこ吹く風。そのままキスをせがんでくるので代わりにデコピンをお見舞いしておく。


「あらあらあら。ずいぶんと楽しいことになってきたじゃないですか。ねぇ、ダン()()?」


 エリーさんは少し落ち着こうかなあ!? ミミ、怖いから離れて。エリーが。


 もう、かんべんしてくれ。



「さて、ここで暮らすとなったら、役割を決めないといけない」

「はいはーい、もちろんじょうあ痛!」

「あー、もちろん家事の担当と冒険者としてのクラスの話だぞー? センシティブな話題はもうおしまいな!」

「もう、話最後まで聞けし。いきなり頭はたくとかマジ信じらんないんですけど。……えと、家事は狩猟が得意かなー? 後は木や革の加工とか? クラスでいうとー、えっへん。ウチ斥候(スカウト)なんだー」


 はぁ? 狩猟は家事というパワーワードはともかく、斥候だ? 笑わせんなよ。

「何の冗談だ? 敵に捕まるような間抜けな斥候なんぞ要らんぞ」


「あーっ、ダンくんソレ失礼だし! あん時は人質を取られたからしゃーないってゆーか。あんな奴ら、いつもなら秒でガチボコよゆーだし!」


「わかったわかった。ならこれから森で面接試験だ」

「めんせつ?」

「ああ。お前の」

「お前いうなし」

 コイツも()()()側か。


「……ミミの実力を森の中で見せてくれ。それで判断する、いいな?」

「あ、そういうこと。うん、いいよ! へへ、期待していいかんね」


 ミミの実力はこれから森の中で確認すればいいだろう。それに昨日のクエストがまだ未達成だ。ついでにサクッとおわらせて、納品してしまおう。




 ミミの実力について、結論から言えば斥候としての実力に疑うところはなかった。年相応以上のスキルを持っていると言っていいだろう。


「どーよ? こんなコトぶっちゃけ都会育ちのお嬢様には無理じゃね? ほらぁ、ウチ案外役に立つっしょ?」


「そうだな、驚いた。完全に想定外だった。ミミ、すげえな」

「うえっ!? ……まぁ、それほどでも、ないし?」


 ミミがキョドっているんだが。素直にほめ過ぎたか? 頬が少し赤くなってる。まんざらでもないようだが。


 エリーがむう、とむくれているが元々違うクラスだ。求められるスキルも違う。だから彼女もそれ以上口を開いたりしない。むしろ実力を認めている節もある。今後パーティーを組むんだ、どうせなら仲良くして欲しい。


「つら。あー、きゅんきゅんするごめんマジ無理なんだけど。しゅきがあふれてしんどい……」

 ミミは背中を丸め小さくつぶやく。……おまえは何を言っているんだ?


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