12 卒業検定、結果
突っ込んでくる牛男。身長は俺の三倍はあるだろうか。獲物は定番といえるのだろうか、ハルバード。槍の穂先が斧になったアレだ。
姿勢を下げ、そのまま角で攻撃してくるかと思えば起き上がり、勢いそのまま得物を横薙ぎにしてくる。こちらは踏ん張り剣で防御。直後ずしりとした衝撃。同時に金属のけたたましい悲鳴が広間じゅうに鳴り響く。
「ブフォッ!!」
牛男が素早く引く、直後大上段からの打ち下ろし。ならば剣で受けつつ、刀身を滑らせ地面に打ち下ろさせる。
今、と攻勢に出る構えに心が警告を発する。地面に刺さったハルバードの斧がぐりんと横を向いたかと思えば、そのままこちらに向かってくる。
「図体の割に、素早いじゃねーの!」
三度剣で受けるもさすがに準備不足。ふわりと体ごと吹き飛ばされる。が、さすがに壁に貼り付けられるほどではない。ザザッ、と着地。相手をにらみつける。
――いやあ、楽しいなこれ。
肩をぐるぐる回しつつ、向き直り牛男に剣を向ける。相手も鼻息を一つ。ずしん、とハルバードの石突を地面に突き立てる。
しかし楽しいと感じられるのか、こんな状態で俺は。これも訓練のおかげ……ってやつか?
「準備運動は終わったか~?」
背後でザスキアがのんびり声を上げる。
「ああ、温まってきたわ。それにさっさと終わらせたら味気ないだろ?」
くっそ、しかし緊張感ねえなコイツ。絶対後で泣かしてやる。セクシャルじゃない方で。絶対セクシャルじゃないやつ。
「よし、一気にケリをつける! エリー、バフくれ!」
「まかせて!」
「ミミ、陽動たのむ! 目を回してやれ!」
「りょ~」
「シルヴィ、先制の火魔法頼む!」
「かしこまりましてよ!」
「ベリータは遊撃! 頼んだぞ!」
「承知!」
「よし行くぞ! 各自散開! ……強化、挑発!!」
俺の魔法により牛男のヘイトが一気に俺に向く。短い雄たけびとともに牛男はハルバードを構え走り寄る。
「させません! 転倒!」
エリーの移動阻害魔法により、牛男の足が何かに取られる、が倒れるほどではない。その一瞬の乱れが大事だ。
「ほらほら、足元にご用心!」
ミミが足首の腱を狙い、すい、とナイフで撫でる。
牛男がうっとうしそうにひと吠えし、ハルバードを振り回す。ダメージには程遠い。足を止めることが目的。それに――
「――我の元に集いし炎よ、一条の槍となりて敵を貫け! 火槍!」
シルヴィの詠唱時間を稼げた。
彼女の杖の先に、虚空から湧き出した炎が集中していく。膨らんだかと思えば直後、弓矢よりも速く鋭く、牛男に向かってその腹を食い破らん勢いで襲い掛かる。
時間にして瞬き一度かせいぜい二度。ヤツの腹に吸い込まれた炎は背中に抜け、爆ぜた。炎の暴力に、思わず目を細める。頬が一気に熱くなる。
牛男は口から血を吹き出すが、それでもヤツは倒れない。俺に向かってハルバードを振りかざす。
「おっと、まだまだやる気満々だな、っと」
剣を構えると、間もなくズシリとした攻撃が身体に響く。とはいえ、もはやハルバードからは先ほど受けた時ほどの覇気は感じられない。シルヴィの魔法はかなり効いているようだった。
「私も、忘れないでいただきたい!」
シルヴィがヤツの軸足に切りつけると、カクリとバランスを崩す。そのタイミングで俺が切り結ぶ剣を押し返すと、牛男は易々と片膝をついた。
さて。これだけ時間とお膳立て貰ったんだ。これで終わりにしよう。腰を落とし刺突の構えで息を整える。
「――竜術 中伝……迅雷っ!」
途端に刀身に雷属性特有の、黄色を帯びた弾ける魔法のようなものが現れる。これは雷属性をまとった刺突を素早く相手に叩き込む剣技。対して流れる時間は緩やかに。相手を含む、周りの動きも緩慢になる。
駆け出し牛男の胸を狙う。ハルバードで防ぐつもりか、しかしその動きは緩慢。間に合わない。俺の剣がヤツの胸に吸い込まれる。瞬間、周囲の空気がピリピリとわななく。直後、鞭を弾くような大きな音がしたかと思えば、牛男の身体が大きく震えた。
目を大きく見開いたヤツは、息をすることも忘れたかのように身じろぎひとつしない。ただゆっくり、ゆっくりと頭を垂れていく。
やがてドスン、とハルバードが落ちる音があたりに響き渡る。先ほどまでと打って変わって、ヤツはピクリとも動かない。呼吸すら忘れたかのように。
静かに剣を胸から抜いた。ヤツの巨体がわずかに揺れる。
ゆっくりした足取りでヤツの脇に回る。歩を止めると場を流れる音は、ヤツから滴る血の音のみ。
大きく剣を振りかぶる。
「じゃあな」
牛男の首を落とし、戦闘は終わった。
「まぁ……こんなもんか。うん、悪くない。死にゃあしないだろ」
ザスキア“さま”が、これまた気の抜けたような調子で講評をつけてくださった。
「そうか? それはそれは、ありがたいことで」
俺の嫌味交じりの返答が気に入らなかったのか。彼女は眉をひそめ、俺に向き直った。そして腰に手を当て、あからさまなため息をつく。
「あのな、わかってると思うが別に褒めてるわけじゃない。むしろようやく及第点ってところだ。本当ならもう少し実力を高めるべきだとは思うが、そうも言ってられん」
「時間を掛け過ぎた、ってことか?」
俺の問いかけに、彼女は軽く首肯する。
「ああ。外ではだいたい二日が経とうとしている。さすがにこれ以上のんびり訓練してる場合じゃない」
ザスキアも仕方なく、というところなんだろう。
「ってことはつまり」
「ああ。竜の里にむかえ。で、可能ならば……」
そこで彼女は言葉を切った。少しためらったが軽く首を振ると俺をまっすぐ見つめてくる。
「クロエ様を……たのむ」
今までとはうらはらな、そのあまりにも真剣な表情を見せた彼女の視線に、俺はただ頷くしかできなかった。
神殿の外へ続く道すがら、当然の疑問を口にする。
「なあザスキア。そんなに里が心配なら、お前たちも加勢に向かった方がいいんじゃないのか?」
しかし彼女の返答は今までとは違い、歯切れが悪い。
「うん? ……ああ、そうだな。もちろんそうしたい。それができれば、だが」
なぜそうしない?
その答えはこの直後、神殿の扉を開けた時にはっきりした。




