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25 一難去れども

 今回の一件。さすがに帝国もしらばっくれるわけにはいかないらしい。そもそもシルヴィがそんなことを、許すはずもなかった。


 帝国情報局を中心とした、独断専行による王国侵略計画と実行、王国貴族、商人への多数の調略、おまけに第二皇女殿下暗殺未遂。……事件が多すぎて正直処理が追い付かない。


 帝国に連行されたスペシェはその後厳しい裁判のあと、絞首刑に処されたらしい。その他情報局内の複数人も処分されたと聞く。


 辺境伯の方はというと。直ちに王都に連行された直後裁判が開かれ、スペシェ同様、王宮前広場で吊られた。騒動に加担した者たちも徐々に捕らわれ、その罪に応じた罰を受けつつあると報告を受けている。


 今回の件、帝国軍情報局内、および軍部の一部過激派が引き起こしたものとされているようだ。しかし取り調べの中でもスペシェの更に背後にいるとされる人物の特定には至っておらず、引き続き不穏分子、過激派の洗い出しに注力していくとのことだった。


 ベリータに言わせると、実は黒幕の目星は付いているらしい。しかし巧妙に身を躱すのでなかなか尻尾を出さなくて歯がゆい、と言っていた。


 折を見て帝国からは正式な使節団が訪れ、公式な謝罪と賠償が行われることとなる。


 これで一連の帝国による王国への破壊工作については、一応の終息を見ることができるかもしれない。



 ◆◆◆


 後の細かいことは騎士団に任せ、さっさとノーウォルドに帰って二週間。やはり別の問題は起きた。割と早かった。


「本当にノーウォルドにお住まいですのね」

 居館をきょろきょろ見渡しながら、シルヴィは感心したようにつぶやいた。


 かしこまった席は嫌だというシルヴェーヌ殿下……もとい、シルヴィたってのご希望で、居館のリビングで話をしている。……この娘も意外と呼び方こだわるんだよな。


 我が国はもちろん、当然帝国からも文官を多数引き連れてきているわけだから、全員ここに入れる人数で集まっているわけではないわけで。必然的に多くはテラスに追い出されるわけだ。結果、取り急ぎ丸テーブルに準備した椅子に、それぞれ座ってもらっている。


 リゾートよろしく等間隔に並んだパラソルの下で、黒服がくっそ真面目な表情でみっちり腰かけてる様子は、ある意味コントだ。


 これ国賓を遇する対応じゃないよねぇ。


「ま、良く言ってホームパーティーね」

 エリーがぽつりとつぶやく。まったく、ひでえ国だ!


「えーっとシルヴィ。今日は、どのようなご用件で?」

 泣きたくなる気持ちをぐっとこらえてシルヴィに問いかける。そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、とってもご機嫌な彼女は一通の封書を差し出す。


「こちらのお手紙をごらんになって?」


 うわあ、高そうな封筒! これって多分、帝国の公文書の封書だよね? 何が書かれてるのかなあ、気になるけど、見たくないなぁ。


「ウォーレナ様。そのように見たくないオーラを出さないで頂けますこと?」

シルヴィが眉根をひそめ抗議する。うっ。ばれてる。……仕方ない。覚悟を決めよう。


 ……内容は想像以上にロクでもなかった。平たく言うと「シルヴィを嫁に差し上げます」、だそうな。


「ご覧になりましたわよね? ……ね?」

「あ、ああ。でも俺は受け入れるとは一言も……」

「というわけで、末永くよろしくお願いいたしますわね、旦那様♡」


 ああもう。話、全然聞きゃしねぇよこの子。


 実はここに至るにも紆余曲折があった。ベルクヴェルクでの一件の直後、シルヴィが何を思ったのか暴走発言を繰り返したのが記憶に新しい――


「私、決めました。ウォーレナ様を我が国に連れ帰ります」

「はあ? 何言っとるんじゃこの娘は」

 クロエがすでに臨戦態勢である。喧嘩は終わったんだから、ここからは平和的に行こうぜ。


「いや、俺にはすでに心に決めた人がいるので、謹んで辞退させてくれたのむ」

「嘘でも良いので婿入りを。それが両国のためです。何なら今の意中の方も引き取りますわ」


 あれ、意中の方って連れ子扱いだったかな? ……ああ、側室扱い。


「……嘘ではいかんだろ」

 当然自分の嘘はスルーする。


「なら本当にしてください!」

「敵国に婿入りなんてできるわけないだろ!」

 俺、間違ったこと言ってないよね? ね?


「よいではないですか、王様なんて辞めておしまいなさいな!」

「王族の言葉とは思えんぞ、それは……」


――などと不毛なやり取りをすでにやっていたわけだ。あの時は結局シルヴィが折れて諦めたはずなんだが……まさかこんな手で来るとは。


 なんでも手紙によると皇帝自ら「両国の友好とお詫びの証として、そんなんで良かったら引き取ってくれ(意訳)」などと発言したのだそうな。ホントかよ。


 いや自分の娘でしょ――!? などと心の中で突っ込んではみたものの、そもそも王族とはこんなもんなんだろうか。だとすれば不憫に感じてしまう。


 ――無下には追い返せない。そんな事情(・・)が垣間見えてしまう。


 隣のエリーはすでに諦め顔になっている。今更もう一人増えても驚きはしませんよ、といったところか。ったく、仕方ない。腹をくくるか。


「帰れと言われても、私にはもう帰る国など」

「いいよ」


「そうですわね。やはり無理……えっ?」

 シルヴィが聞き間違いでもしましたっけ、私? みたいな様子で顔を上げる。


「だから、ここにいればいいじゃないか。一緒に暮らそう」


 俺の言葉に対してか、途端にシルヴィは表情をくしゃりとゆがめ、口元を押さえる。

「ほ、本当に良いのですか……? 多大なご迷惑をおかけした、こんな私でも?」


「今更だろ。路頭に迷われても困るしな。その代わり、みんなと仲良くしてくれよ?」


 シルヴィは、涙を流しながら笑った。

「はい、はい……! ありがとうございます。皆様。私、誠心誠意ウォーレナ様に尽くしますので、皆様もぜひ仲良くしてくださいましね」


「はあ。そういうことなら致し方ないの。主と我のために、国家繁栄のために尽くすがよい。よろしくな」

 クロエはため息をついたかと思えば苦笑で彼女を迎えた。


「ここの事は、私に聞いてくれればいいわ。あまり気負わないでね」

 エリーが彼女の肩をそっと撫でる。


「んもー、またライバル増えたし。シルヴィはウチらの妹分? なんだから、順番はきっちり守ってよね!」


 早速マウント取りに行くのはミミの可愛いところでもあるが、今回ばかりはそうもいかないと思うぞ……?


「あら。旦那様にご寵愛頂くのに順番など必要、あって?」

「むきー! 絶対負けないもんね!」


 ほらな。仲良くしてくれよ?


「皆様に受け入れて頂けそうで、本当に良かったですわ。ね、ベリータ、貴方からもお礼を言いなさい」


「私のような者まで受け入れていただける懐の深さ。さすがは王国を束ねる英傑でいらっしゃいます。ぜひとも稽古もつけていただきたく。……いずれはお情けも」

 ベリータが、まぁいかにもベリータらしい挨拶をしてきた、……わけだが?


「え、ってちょっと待て? ベリータも、なのか?」

「当然です。いつまでも私はシルヴィ様の付き人ですから。シルヴィ様が赴かれるところには必ずお供させていただきます」


「えっと、つまり……」

「私とベリータ。二人共々、末永くよろしくお願いしますね」


 お、おう、そうか……うん、わかった……。


「アタシもここに住んでいい!? いいよね!?」

「ダメに決まっておろう。やはりアホなのか?」


 レティシアが元気いっぱいに手をあげてアピる姿に、クロエは冷めきった声で突っ込みを入れた。



 しばらくしてクロエが里に帰ると言い出した。毎年定期的に戻って会合に出なければならないと言っていたあれだという。双子がさらわれた時期と被って大変だったことがあったな、などと皆で笑いあった。


「二、三日空けるが寂しい、などと言って泣くでないぞ?」

 俺に軽口を叩いてエルザ、ライザと共に発ったのは先週のこと。彼女たちはまだ戻らない。


「クロエたち、さすがに遅くないか?」

 そうエリーたちに話したその日の夜、事態が動いた。


 その日の深夜。戸を叩く音に何事かと開けてみればそこにはライザの姿が。見ればずいぶんと傷ついている。


「どうしたんだ、お前がこんなに傷つくなんてただ事じゃ」

「助けて、ご主人様。このままじゃ、御館様が、お姉ちゃんが、死んじゃう……」


 それだけ呟くとその場に崩れ落ちる。あわてて抱えてベッドに急ぐ。


 クロエがどうしたって? 死ぬ? それにライザの全身にわたる大小の傷。


 ライザがここまでになるなんて。竜の里で、一体何が起きているんだ。



お読みいただきありがとうございました。

これにて第2部完結となります。


引き続き第3部、竜の里と守護竜クロエを中心とした話がつづきます。

しばらく執筆期間を取らせていただきます。

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