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23 曲解の氷解

 途端に上空での戦いが止まる。話せばわかるんだ、こいつら。意外……。

 二人が何事かと共に降りてくる。周りの翼竜同士の戦いもそれに合わせて一旦収まった。


「なあに、シルヴィちゃん。お姉さんに何が聞きたいの?」

 腕を組んで、ぱっと見シルヴェーヌより幼く見えるレティシアが問いかける。


「先ほど簒奪王から、自分は国を奪ってなどいないと聞かされました。いささか信じがたい話なのですか、本当のことですの?」


 いい加減、簒奪王呼びやめようか。


「え? 本当のことですのことよ?」

 レティシアが彼女の口真似をする。これ、バカにしてるよなぁ絶対。


「うむ。主はまっとうな手段で国を救い、みなに推されて王位に就いた英傑じゃ。今すぐこんなバカげたお祭りは止めにして、さっさと帝国に帰るがよい」


 クロエもレティシアに同意する。もっとも、事実だからな。英傑ってところはちょっとこっぱずかしい気もするが。


「そんな……では今まで私が信じてきた事柄はどういうこと……? もしやすべてが嘘……? スペシェ! どこにいますか!?」


 彼女の呼びかけに、瓦礫をよじ登りながらスペシェが顔を出した。


「はっ、ここに! ……むっ!? 貴様、殿下から離れろ!」

 俺を見るなり表情が強張る。


「よい。スペシェ、控えよ。私が許可しました」

「し、しかし」

「控えよと言いました」

「……は」


「先ほどレティシア様から聞きました。こちらのウォーレナ・グレンヴィル殿。簒奪王などではなく、王国の正式な手続きを経て即位された正統な王とのことだが誠か。無理やり奪ったのではなく、むしろ帝国の情報士官が仕掛けたクーデターを防いだ英雄だと。どうなんです?」


「こ、皇女さまそれは……」

「どうしました、答えなさい。我らは。私は、一体あなた方に何をさせられているのですか!?」


 しかしスペシェは答えない。視線を左右に彷徨わせ、必死に言い訳を考えている? おおかたそんなところだろうか。


 そんな彼の様子に確信したのか。シルヴェーヌは彼の言葉を待たずに広場の兵士に向かい、宣言する。


「我に与する兵士たちよ、お聞ききなさい! この戦いは私の正義ではありません! 直ちにここから撤退しなさい。聞かぬ者は、私自ら裁きを下します!」


 彼女の突然の命令に、周りの者どもに動揺が走っているようだ。兵士同士困惑気味な様子でざわざわと話し出す。


 スペシェが長く息を吐くのが聞こえた。振り返った先には、さっきとは裏腹に落ち着いた様子の彼の姿が。違和感と警戒感が俺の中で広がった。


「いっそ殺されれば良いと思っていたが。もはやここまで、か……」

 半ば達観したかのような表情のスペシェは、自嘲気味に笑う。自身に向けてか、誰に向けてか。それはわからない。


「なんです、スペシェ。申し開きがあるなら言いなさい」

 シルヴェーヌはそんな彼の態度が気に入らないのか、問い詰めるように尋ねる。


 彼女の言葉がトリガーとなったのか。


「殿下。お覚悟っ!」

 突然剣を抜いたスペシェが、シルヴェーヌに襲い掛かる。


「スペシェっ、何を!」

 シルヴェーヌを押しのけ剣を受ける。二つの剣がぶつかり、ジリッ、ジリッと火花が散る。


「おいおい、ずいぶん躾のなってない犬っころだな」

「おのれ、邪魔をするなっ!」

 侮蔑と挑発を込めた言葉に、スペシェの顔が醜くゆがむ。ほう、それがお前の素顔か。なかなかの良い悪役面じゃないか。


「なっ、何をするのです、スペシェ!」

 シルヴェーヌは二、三歩あとずさると自分を守るべき近衛の暴挙を問いただす。いや、もう理由なんて分かりきってるだろ、とは余りにかわいそうなので言えない。


「いやなに、邪魔なので消えていただこうかと。……これから殿下は志なかば、異国の地で命を落とすのです。それも王国の手の者によって。帝国民は心を痛めることでしょう。それをこの国に攻め込む口実として使わせてもらいます。簒奪王が居るのは計算外でしたが……なに、逆に都合がいい。どさくさ紛れに討ち取れるやも知れぬからな。……さあ者ども、かかれ!」


 兵の間にも動揺が広がっているようだった。無理もない、今まで守るべき対象と指示されてきた相手を害す命令なのだ。互いに見合うようにのろのろと準備を始める。


「どうした貴様ら、俺の命令が聞けないのか!? 軍法会議モノだぞ! さあ、さっさとあいつらの首を取れ! 王国の騎士団が邪魔だてしてきたら撃退しろ!」


 スペシェはもう取り繕うことは諦めたらしい。兵士のほうも、動きが通常のそれとは明らかに鈍くはあるが、今のうちに準備はしないと数で押されるとまずい。


「エリー! そこで伸びてるベリータを!」

「もうやってるわよ!」

 エリーが俺の意図を汲んでくれ、早速回復を掛けてくれているようだ。俺の相棒はこういう時、本当に頼りになる。


「ビル、メグ! ついてるか!」

「「はい!」」

 双子もエリーの近くで戦闘準備に入っていた。


「回復したベリータと円陣を組んで、姫さん囲んでみんなで守れ! さっき信号弾を騎士団に向かって放った! しばらく持ちこたえればいい!」

「しばらくってどれくらいだよ、お師匠ぉ!」


 早速襲い掛かってきた兵士を相手にしながら聞いてくるが、すまん、わからん。


「しばらくはしばらくだっ! おい、レティシア!」

「なになにウォーレナきゅん? デートのお誘いかな?」


 尻尾で襲い掛かってくる兵士をはじき飛ばしながら、あざとい表情でバカなことを聞いてくる。この状況でデートに誘う奴がどこにいる。


「アホか。そこで高みの見物してる暇あるなら、自分トコの姫さんくらいこの不忠義者どもから守ってやれ!」


 ていうか話してる間もノールックで相手を殴るとか、一周回って面白いから今度ゆっくり見せてくれ。


「えー。もう、しようがないなぁ」

 俺の『お願い』にレティシアは渋る。こいつ分かっててやってんだろ。無性に腹が立ってきた。後で一発ぶん殴ってやる。


「しようがなくないっ。アンタ、守護する立場だろうがっ」

「はいはいわかったよ。今回は貸しにしとくかんねっ」

「なんで俺に貸しなんだよ。そんなツケ、帝国に回してやるから、あっちから受け取れ!」


 俺も敵をさばきながら話すの、地味に大変なんだぞ!? くだらないやり取りをさせるの、やめてもらえますか!?


「あとシルヴィ!」

「ひゃ、はいっ……な、なんでしょうか」

 ちょっと言い方がきつかったか? 彼女はビクリと過剰に反応した。俺の脇にそろそろと顔を出す。


「聞いての通りだ。とっとと下がってベリータと仲良く見物でもしてろっ」

「えっ、あ、貴方は……?」

「俺? 俺は……」


 つばぜり合いをしていた剣を思いっきり弾いて剣先をスペシェに向ける。

「この守るべき姫様に刃を向ける、最高にダセぇ奴らを叩きのめしてやろうと思ってな」


 我が領土を、国民を。自ら忠誠を誓うべき王族を、仲間を、か弱き女性を。こいつらは騙し、利用し、食い物にした。


「飼い犬が主人に牙をむくとは一体どういう了見だ? 貴様らの罪。その薄汚ねぇ魂魄に刻み付けてやる。さぁ、躾の時間だ。かかってこい!」


「言わせておけばこの……簒奪王……片田舎の成り上がりの分際でぇぇ!」


 スペシェが歯ぎしりをして剣を構えなおした。


 ちょうど騎士の連中もなだれ込んできた。これで頭数的にも問題ないだろう。


「祭りには間に合いましたかね~、陛下~?」

 ギルバートが広場でのんきに声を上げた。


「おお、丁度今からだ。任意の判断で始めてくれ!」


「おのれどこまでも我らを愚弄しおって……、貴様は精鋭で一気に潰す! 『猟犬』ども、あのふざけた愚王を食い破れ!」


 気配はあったが、一気に出してきたな。――『猟犬』。帝国軍の最精鋭。前回は一人だったが今回は五人。……っと。


「私を含め六人の『猟犬』部隊。おまけに頼みの守護竜どもも皇女殿下(あちら)にかかりっきりだ。さしもの竜を統べる者(ドラゴンマスター)であっても、苦しいのではないか?」


「さあ、どうだろうな?」


 しかし先ほどから間断なく繰り出される『猟犬』たちの攻撃。ある時は波のように。ある時は槍のように多彩な攻撃を繰り出すチームワークには舌を巻くほかない。


 さすがは数々の逸話が残す連中、『猟犬』の面目躍如というわけか。次々と身体中、細かい傷を刻まれる。最小限の動きで躱しているからだが、このままではいつ深手を負うかわからない。どこかでブレイクしないとじり貧だ。


「どうした愚王よ、手も足も出ないではないか!? やはり実力不足は否めぬなあ!?」

 スペシェが愉快そうにあおる。


「そいつは楽しそうで何よりだよ……っ!?」


 わずかな隙だった。雑草に足をとられ、動きが遅れた。その時背後からの刺突が。完全に死角からの攻撃。遅れて態勢がとれない。


「しまっ……!」


 受けても致命傷にはならないだろう。刺突を覚悟した。


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寝取られ追放された最強騎士団長のおっさん、
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1巻ともどもよろしくお願いします!
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