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34 双子の変化と唐突な凶報

 無事家に戻って来てからのビルの変わりっぷりは目を見張るものだった。


 活発な男の子といった外見はなりを潜め、ズボンは短めのスカートやワンピースに。無頓着そうだった上着は色味こそ大人しいものの、ずいぶんカワイイ意匠のついたものに変わった。


 いわゆる活発な女の子風になっていた。

 そして如実にいたずらが増えた。困ったものだ。


「ほらお師匠。みてー」

 そういってスカートをぺろんとめくる。


「わっ、バカお前なにやって……!?」

 慌てて目を背けた俺の様子がおかしいのか、くすくすと笑い声がする。何事かと視線を戻すとビルがドヤ顔で指をさす。


「へへっ。これスカートじゃないんだよっ」

 見れば短パンの周りにスカートのような布がついている。なんだよもう。


「ね、お師匠」

 後ろ手に上目遣いで覗き込んでくる。その仕草はなんというか、あざといぞビル!


「……なんだよビル」

「期待した?」


 ニヤニヤと反応を楽しむかのような表情で、悪戯を仕掛ける天使のような声色で問いかけてくるわけだから実に心臓に悪い。


「!……するかガキが!」

「あははっ。やーんおねえちゃんお師匠がこわーい」

 そういってエリーの陰に隠れた。


 後でエリーに聞いたらパンツスカートというらしい。見た目はミニスカートだぞ。純真なおじさんをからかうんじゃない。



 まったく。どうしてこうなった?

 不意にあの廃屋での双子の最後の言葉が思い出される。


 双子はまっすぐに俺を見てはっきりとしかし静かに一緒に居たいと言った。あの時は何も考えずに「そうか。わかった一緒に暮らそう」とだけ答えたんだが……。


「末永くお願いします。ダンさん」

「ずっと一緒にいてね、お師匠」


 あれはどういう意味なんだ?

 考えようとするも、同時に考えない方がいいともう一人の俺が告げている。


 うん、考えないでおこう、ヨシ!



 そして問題はほかにもある。

「もうビルったら、ダンさんを困らせちゃダメでしょ」


 リビングにやってきたのはメグだ。この子に関してもちょっと困ったことが。

「ダンさん。クッキー焼いてみたんです。味見してくれませんか?」


 ぴとっ。

 とにかくくっつきたがる。今は左腕がホールドされて身体を密着されている。これ何気に肘関節きめられてるんだよな……体術は教えていないはずなんだが。


「はい、あーん」

「や、自分で食べられるから。ありがとう……うん、うまい」


 それどころじゃないので味、しませんけどねー。


「よかった。今日のおやつの時間にお出ししますので、いっぱい食べてくださいね?」

 そして一度ぎゅっと腕を抱きしめてからようやく解放してくれるのだ。


 こんなのが日に数回ある。そのたびに悩ましいやわらかさを腕で感じるのと同時にエリーの周りの気温がグッと下がるのを本能で感じ取る。


 正直生きた心地がしない。




「は? いまなんて?」


 昼食が済んでお茶を飲んでいる時だった。クロエがとんでもないことを何気なく話した内容に、心底驚いたのだ。


「じゃからお主がおった騎士団が蛮族に負けたらしい、といったのじゃ」

 カップを軽く持ち上げながらクロエは面倒くさそうに答えた。


「うそだろ……それいつの話だよ」


 彼女は斜め上に視線を移しながら記憶を手繰るようなそぶりを見せる。

「そうじゃのぉ、だいたい十日くらい前になるかの」


「損害は」

 エリーがかぶせるようにクロエに問いかける。


「そこまで我が知るわけなかろう。それにお主らにはもう関係のない話ではないか。そのようなこと聞いてどうする」


 クロエは眉間にしわを寄せて抗議した。確かに今は騎士団を抜けた身。関係ない話ではある。


「う、それはそう、ですけれど」


 エリーがたじろぐ。いやそれはどう考えてもおかしいだろ。強烈な違和感のままクロエに尋ねる。


「ちょっとまて。クロエ達が居てなぜ負けることがある? まさか隣国の竜が?」

「そんなことあるわけなかろう。単にお主らと我らが参戦していなかったからに決まっておろう」


「俺たちはともかく、クロエ達が参戦してないのはなんでだよ」

「お主を蔑ろにする国を守る道理がどこにあるのじゃ」


 俺は言葉をなくした。つまりは俺が騎士団を率いていないから、その理由が納得いかないものだから協力しなかった、そういうことなのか? まさか。


 確かに守護竜の参戦はいままでも確約されたものではなかった。自分が騎士団に入る前はこんな時もあったようだ。けれど俺が騎士団に入団してからはそんなことは一度もなかったはず――。


 もしかして、本当に俺が騎士団に居ないから参戦しなかった、ということなのか。


「その通りじゃ。そんなこと、決まっておろう」

 クロエはさもありなん、とでも言いたげに切って捨てた。


 これは相当まずいことではないのか? 騎士団が弱いとは思わないがこれまでは竜の加護と支援があったからこそ蛮族の侵入を抑えていたという側面もあるはずだ。


 それが突然支援を受けられない状況になったとしたら?


 うぬぼれるわけではないが、俺が抜けた騎士団は一時的にせよ指揮系統に弱点を抱えているはずだ。ギルバートも長年俺の右腕として副団長を務めていた優秀な騎士ではあるが、引継ぎなしで今の職責についているのだから何かしら無理が生じていてもおかしくない。


「早晩あの砦も落ちるかものう」


 あの砦。グルカ砦。蛮族の支配地域との境界線にある、元は蛮族が築いた橋頭保だ。一年の遠征の終盤に苦労して落とした記憶がある。


「そんな他人事な」

「そうじゃの、今の我らには関係ない事柄じゃ」


 クロエは取り合わない様子でカップのお茶に口をつける。こくりと飲み込んだかと思えばとんでもないことを口にする。


「あんな王家、滅びてしまえばよいではないか」


 さすがに信じられなかった。じいちゃんや両親と、ともに王国を守り続けてきた守護竜の物言いとはとても思えなかった。


「おいクロエ。それはいくらなんでも」

「何度だって言ってやってもよいぞ? お主を蔑ろにする国など、滅んでしまえばよいのじゃ! だいたい」


 その言葉に沸騰した。

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