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3 まずは家畜と労働力

 少し先を二人が歩くのを周りの出店を見るふりをしつつ尾行する。


 いまのところ周辺に妙な奴はいない。やはりのんきに取引場所で待ってるってことか。実に都合がいい。


 そのまま何も起こることもなく町を出る。ビルが言っていた廃屋が見えてきたところで脇に逸れ回り込む。


 草むらから様子をうかがっていると廃屋の中から男が一人ゆらりと姿を見せた。

 ビルが背負い篭を男に突き出すのが見える。この男以外に気配はない。どうやら犯人はこいつ一人のようだ。ビルと二言三言言葉を交わすと、ふいに男が懐からナイフを取り出す。


「話が違うじゃないか!」

 ビルが叫ぶ。合図だ。草むらから飛び出し男に向けて右手をかざす。


「動くな!」

 突き出した右の人差し指の先に炎がゆらめく。ごく初歩の火系統魔法――火弾(ファイアショット)――を構えつつ近づく。


 男は突然のことに驚いているようだ。そのまま逃げようと背を向けたのでその先の地面に着弾させる。男は短い悲鳴を上げて飛び上がった。


「動くなっつったろが」

 次弾を込め、狙いを定める。こちらを振り返った男は観念したのか、ナイフを取り落としその場にへなへなと崩れ落ちた。


 ◆◆◆


「いやー、すまんかったな坊主」

 目の前に簀巻きにした真犯人を転がしてやったところ、農場のオヤジはグシグシとビルの頭をなでたおす。対するビルは怒り心頭のようだ。無理はない。気持ちはわかる、が。


「そもそも勝手にひと様の畑に入って作物を取ったのが原因だろうが。お前も反省しろ」

「わ、わかったよおじさん。反省してる」

「あ? お前本当に反省してんのか? なんだよおじさんって。お・に・い・さ・んだろが」

「意味わかんないよ、怒るところおかしくない?」


 そんなやり取りをしている中、先ほどからずっと黙ってついてきていた女の子がつい、と寄ってきた。


「あ、あの。危ないところを助けていただき、その、ありがとう、ございます」

「おう、次はあんなのに引っ掛かるんじゃないぞ」


 笑いかけてやるとびっくりしたようにビルの陰に隠れた。なんだよ、傷つくじゃないか。


 どうやら犯人は隣村の農家だそうだ。もともと大掛かりに盗むつもりでいたらしい。その前に警備の状況を知るためにその辺の子供に小銭を握らせ、少量盗ませて様子を見るのが手口だったらしい。浅知恵が過ぎる。


 今回の二人のように囮となって捕まった子供は他にも居たのではないかということで、自警団のリーダーらしき男が近隣の町や村に照会すると言いのこし、犯人を引き連れて去っていった。


 農園のオヤジにはこれ食ってくれとセロリの篭を押し付けられ、金も返された。

 ガキ二人助けたら篭いっぱいのセロリと篭が手に入ってしまった。うーむ錬金術。


 後には俺とガキ二人が残されたわけだが、さて……行きがかり上こうなってしまったわけで。どうしたもんかな。定番の流れだと教会とかかな? だがなー……


「あー、お前ら――」

「あの、お兄さん!」

 意外なことに女の子の方が声を掛けてきた。


「お兄さん、魔術師さんなんですか!? ぼ、ボクに魔法を教えてもらえませんか? 代わりに炊事洗濯畑仕事何でもします! あ、力仕事はビルが」


「はあ? そりゃまた急だな。それに俺は魔術師じゃない。クラスでいったら魔法剣士だ」


 今度はビルが食いついた。

「え!? じゃ、じゃあ兄ちゃんは剣も扱えるのか!? それなら俺に剣の稽古をつけてくれよ! 力仕事なら任せてくれ。あ、炊事洗濯はメグにたのむ」


 どうするか。確かに人手は欲しいところだ。見たところこいつらは何か訳有りで家を出てきた様子。だかいよいよ食い詰めてキツくなってきたってところか。


「お前ら。なんでそんなにスキルを欲しがる」

「それは……二人で生きていくためです。ボクは、ボクたちは冒険者になります」


 ほう、華奢な見た目の割に根性座ってるなこの娘。


「おう、俺もだぜ。こいつ力仕事はからっきしだけど頭はいいから魔法使いがいいんじゃないかって。あ、名前はメグ。俺の妹な」

「ちょっと何言ってんの。ボクがお姉ちゃんっていつも言ってるでしょ。……すみません、こいつバカだから剣しか扱えないと思うんです。お願いします、一生懸命お役に立ちますから」

「バカにバカっていったらバカが移るんだぜ? あ、そんなことより俺からも頼む。この通りだ、教えてくれ兄ちゃん」


 兄妹? 姉弟? 喧嘩はほかの所でやってもらいたいものなんだが。しかしどうする。裏切りや罠のリスクを色々考えてみるがキリがない。

 それに教会や孤児院に入ったガキがどういう末路を辿るのかも、嫌というほど見てきたつもりだ。……くそ。色々考えたがもう悩むのをやめた。あー、どうにでもなーれ。


「はぁっ! あー、もうわかった。とりあえずウチ来い。んで飯にしよう、腹減っちまった。ったく家畜飼う前に食い扶持が増えるなんてよ」


 とりあえずはしゃぐ二人を家に連れ帰り、あまりに臭うんで先に身体を拭かせてから腹いっぱい食わせた。それからここ数時間、泥のように眠っている。余程疲れていたのだろう。今までどんな暮らしをしてきたのだろうか。靴を見ても元は上物の革靴だったようだが、靴底がすり減って見る影もなかった。どんな出自でどういう事情があるのかは知らないが、ある程度は聞いておく必要はあるだろう。


 寄り添うように眠る姿を見ているとなんだかじんわり温かな感情が湧いてくる。そういえば人と食事をするのもしばらくぶりだった。


 ったく、ただ穏やかに暮らしたいだけなのによ……。


 ただ、まぁ、うん。悪い気分ではない。


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