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12 背徳感と歪む性癖

「いや、それには及ばない。もうそれは気にしちゃいない」

「そうか? ……つらかったの。ならとりあえず、おっぱい揉むか?」


 そういってクロエは立ち上がると自らの胸を下から抱える。ぽよんぽよんと揺らすその姿を脳死状態でしばし眺めてしまった。


 メグに届かない華奢な身体にエリーと並ぶくらいの胸がくっついている、人形のようなドレスをまとった見た目十二、三歳の少女、それがクロエの人としての姿だ。それが微笑みをたたえつつ自らの胸を揺らすのだ。それはなんというかその。背徳的、という表現が一番しっくりくる。なんとなく見てはならない気にさせられる。


 思考を停止しぼんやり眺めているうちに隣から鋭い肘打ちが飛んできた。いたい。

 だがおかげで正気を取り戻せた俺は「いや結構」とそれだけなんとか絞り出すと、クロエは「つれないの」とつまらなそうに揺らすのをやめて再び腰掛ける。


 俺の正常な感性、生きてる。なんとか生きてるよ! エリーに感謝。


「そういや昔から聞きたかったことがあるんだ。……なんで俺と契約した?」

「戯れじゃよ。何があろうと、どうせダンが先に死ぬ。対して我らの寿命は永遠に近い。暇つぶし、という表現が適切かどうかわからんが……まぁそういうことじゃ。気にするな」


 恐らく今のは彼女の本心ではないだろう。言いたくないのなら無理に聞くのも野暮だ。


 クロエがエールのジョッキを一気にあおる。見た目は少女だが、中身は俺より数十倍は長く生きているはず。問題はない。ないのだが、外見が色々歪ませて来るのがツライ。


 だがクロエの回答に納得できない様子でエリーが口を開いた。


「クロエ様。お言葉ですが、四天の一柱を担うほどのお方がヒトと契約するなど、少々戯れがすぎるかと。大地母神のお耳に入りでもしたらさぞ」

「たしかエリーと言ったか。回りくどいのうお主。はっきり申してみよ」


 クロエは手をひらひらとはためかせながらエリーの言葉を促す。その様子に血が上ったのか、エリーはやや興奮気味な様子で続ける。


「……これ以上彼を苦しめないで下さい! もう十分ではないのですか? 竜の加護はあまりに強力。ヒトにとってはもはや毒」


「ほう? たかが聖女とはやされるだけの小娘が意見するか、この我に」

 クロエの雰囲気が一気に剣吞なものに変わった。エリーも気圧された様子で身を引く。


「苦しめる、か。くく、なるほど面白い、なら教えてやろう。ダンと我の契約にはなあ」

「クロエ。それは」


 クロエの言葉を制する。待ってくれとの意味をこめて。彼女は身にまとう剣吞さを一気に引っ込め、「なんじゃ?」とぱちくりと瞬きをする。やがて呆れたような表情を一瞬見せると頭をかいた。


「……ああ、そうじゃったな。悪いがエリー。それを言葉にするのは禁忌にふれるのじゃ。なのでできぬ。許せ」


 さらになにか言いたげなエリーもこちらは手で制す。

「心配してくれてありがとうエリー。戦場を離れて今は『衝動』も起きない。俺は大丈夫だ。このままこの平和な地でのんびり生きていく分には、なにも困ることはないさ」

「でも……」

「いいんだ。心配ない。お前にももう、迷惑はかけない」


 そう。エリーは何も心配いらない。あんな思いはさせない。もう二度と。



「ああ、そういえば聞きたいことがもう一つ。なあ、クロエって今いくつなんだ?」


 ジョッキをクロエに向けて聞いてみると、途端に彼女は渋い表情を見せる。


「レディーに歳を聞くとは。いつものことながら、野暮なやつじゃな」

「レディーだったか。そりゃ悪かった」


「ダンよ。あまり軽口が過ぎると今日がお主の命日になるぞ? ……歳はお前が死ぬときにでも教えてやるから楽しみにしておるがよい。それまでは永遠の十七歳くらいに思っておけ。それくらいが丁度いいのじゃ」


 すこし酔っているのか? 身振りが大きくなったクロエがジョッキ片手にふらりふらりと指を動かす。


「ふん、どう見ても十三くらいがせいぜいだろう? もう少し容姿をヒトのそうだな、二十歳くらいにはできないのか?」


 連れ歩いてたら周りの視線が気になってしようがないんだよなぁ……。


「この姿が一番ラクなのじゃ。童の姿だと変に色目を使う男もおらんしの。それに年頃に調整してうっかり主を誘惑してしまうと都合が悪いおなごも多そうじゃしのー」


 そういって彼女はエリーをチラと見やる。またそうやって挑発する……。ほら穏やかならぬ感じになっちゃったじゃん!

 それに子供とか言っときながらその胸のカスタマイズはおかしい。その容姿を好む性癖の男も絶対一定数いるんだから、襲われても泣き言いうなよ?


 ……ま、もっともクロエに何かしようとした瞬間、この世からサヨナラバイバイすることになるだろうから、まったく心配に値しないのだが。


「そうだ。明日の話をしておきたい。俺らの家の事だ」

「あ、ああうんそうじゃな。その件は本当にすまんことをしたのじゃ」


 クロエは一転、申し訳無さそうに背を丸める。この竜はこの大陸を守護する四体の古竜のうちの一体。ホントはとっても偉いはずなんだが、俺の家ごときを踏み潰したくらいでこのしょげ様。

 昔から付き合いがあることも手伝ってか、大陸じゅうから畏敬の念で祀られている存在にもかかわらず俺にとっては年上のなんだか可愛い人、という認識が変えられないでいる。


「家の材料がほしい。明日がれきをキレイにしてから木を伐ってこい。いいな」

「わかったのじゃ!」

「ちょ、ちょっとクロエ様にそんなことさせていいの?」

「家を破壊したのはコイツだ。コイツにやらせて何が悪い?」

「いや、まあそれは……クロエ様、よろしいのですか? そんな役目」

「ん? よいぞ? そんなもん朝飯前じゃ。まぁ、朝ごはん食べた後でお願いしたいがの」


 楽しみじゃのー、どんな家にするかのー? などとクロエはすっかり明日のことでご機嫌だ。まぁ機嫌よくやってくれるならなんでもいい。


「そうだ。あと壊れた什器を買いに南の街に行きたいんだが、()()()()は連れてきてないのか?」

「ん? アイツら? ……ああ、ライザとエルザか。近所の森に居るはずじゃ。呼べば来るじゃろうて。なるほど、ダンは二人を使って買い物か。そうじゃな、それがいいじゃろう」


 あの二人が来てくれているなら、今後も随分とやりやすくなりそうだ。さっそく明日呼んでもらうことにしよう。



「さて、夜も更けたの。そろそろ眠るとしようではないか」

 クロエの提案にそうだなと答える。それを待っていたかのようにニヤリと悪い表情をクロエが浮かべる。嫌な予感しかない。


「そうじゃ主よ。久しぶりじゃ、今宵は主と共に休むとしようぞ」


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