至のご褒美①
「じゃっ、じゃあ撫でなくて良いから、頭の上に手を置くだけでも良いの! ねえお願い、センセー⋯⋯」
うららは至のセーターの袖を摘みながら懇願するようにそう言って、潤んだ瞳で至を見上げる。
「⋯⋯⋯⋯常春さん」
ようやっと至が口を開いた。諭すような口調から、うららは次にどんな言葉を掛けられるのかを察してギュッと固く目を瞑った。
「以前にも言ったと思いますが、そういった事を教師に求めるのは如何なものかと思います」
想像通りだった。
うららは泣きそうになるのをグッと堪えて震える唇を開く。
「っ⋯⋯でも! センセー、ご褒美くれるって言った⋯⋯!」
ここで引き下がればもう次の機会は二度と来ない気がして、うららは必死に食い下がった。
(こんな事言ってセンセーが困るのは分かってる⋯⋯。でも、うららにだって————)
譲れないものがあるのだと、ジッと涙を湛えた瞳で訴えかけるように見つめる。
(お願い⋯⋯うららの本気、伝わって⋯⋯!)
しばらくの間、準備室の中に沈黙が流れる。
沈黙を破り、最初に口を開いたのは至だった。
「⋯⋯君にとって本当にそんなことがご褒美になるのですか?」
「なるっ!!」
うららは間髪入れずに答える。
「⋯⋯!」
至はうららの勢いに圧倒され目を丸くした後、フッと息を吐き困ったように笑った。
「⋯⋯分かりました。他の生徒には口外しないと約束出来るのなら、君の願いを聞き入れましょう」
「ほっ、ホント⋯⋯!?」
まさか至からの了承が得られると思ってもみなかったうららはずいっと身を乗り出す。その碧の瞳は朝日を浴びた湖面のようにキラキラと輝いていた。
「約束、出来ますか?」
「する! 出来るっ!!」
食い気味に答えるうららを見た至は、クスリと笑みを洩らした。
「君らしい、元気な返事ですね。本当にこんなことがご褒美になるかは分かりませんが⋯⋯約束した手前、反故にするわけにはいきませんからね」
「あたしにとっては1番のご褒美だよっ! 勉強、頑張って良かった!」
「そうですか。つくづく君は不思議な人ですね。⋯⋯しかし何故、そんなにもこの行為に拘るのかは今は聴かないことにします」
「⋯⋯うん」
見ると、至は何かを言いたげな表情をしている。うららは至からそっと視線を外し、こくりと頷いた。
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