センセー、ご褒美ちょうだい?
放課後、うららは国語準備室の前で行ったり来たり、うろうろとその場に留まって部屋に入るのを躊躇っていた。
(センセーに無理矢理ご褒美貰う約束取り付けちゃったけど、どうしよう⋯⋯)
うららは5枚のテスト用紙を胸に抱え、ギュッとそれを握り締めた。力を込め過ぎてクシャクシャになったプリントに目を落とす。
うらら史上最大の高得点ではあるものの、世間一般的には悪い点数であるそれらを自信満々に見せつける度胸は持ち合わせていなかった。
(総合で150点超えるなんてって最初は喜んでたけど、多分これは当たり前のことなんだよね。⋯⋯でも、こんなに頑張ったんだからせっかくなら見てほしい! そして、あわよくば褒めて欲しいッ⋯⋯!!)
うららが己の欲望と葛藤していると突然、背後から声を掛けられる。
「どうしましたか、常春さん」
「ひゃっ⋯⋯!?」
いきなりの事にビクリと肩を跳ねさせて情けない声を上げてしまう。
「せっ、センセー⋯⋯!」
(部屋の中に居ると思ってたのに⋯⋯!!)
至の姿を確認するなり、うららは持っていたテスト用紙をサッと後ろ手に隠した。
しかし、至には全てお見通しのようで直ぐにそのことに突っ込まれてしまう。
「常春さん、今後ろに隠したものは?」
「⋯⋯えッ!? 別に何も隠してないけど!?」
「⋯⋯君はその手に持っているプリントを僕に見せに来たのではないんですか?」
「なっ、なんで————」
「取り敢えず、入って下さい」
後の言葉を続けようとすると、至はうららの声を遮って国語準備室の扉を開けた。
✳︎✳︎✳︎
「あ、あのね⋯⋯これ、センセーに見て欲しくて」
今更もう後戻りは出来ないとどうにか覚悟を決めたうららは恐る恐る口を開く。クシャクシャになった紙を出来るだけ引き伸ばし、5教科の中で一番点数が高かった国語のテストを差し出した。
「これは、国語のテストですね」
受け取った至は意外にもあっさりした反応だった。
「やっぱり、低いよね⋯⋯⋯⋯」
至の反応が薄いことを不安に思ったうららは、しゅんと項垂れてボソリと呟く。
「確かに、平均点よりは下回っていますね」
「うん⋯⋯知ってる。あたし、バカだもん⋯⋯⋯⋯」
分かってはいても改めて突き付けられた残酷な現実にうららの瞳にはジワリと涙が滲む。そして、ジワジワと酷い点数のテストを見られていることに羞恥心を覚える。
耐え切れなくなって至の手から取り返そうとした時————
「ですが、君の今回のテストの点数は僕が今まで見てきた中で一番高い。⋯⋯頑張りましたね、常春さん」
至はフッと柔らかい笑みを浮かべた。
「!?」
想い人の不意打ちの笑顔に、うららの頬は見る見る赤みを帯びていく。
(センセーの笑顔⋯⋯!! しかもうららだけに向けたものっ!! メチャクチャ嬉しい⋯⋯でも、今はそれよりも————)
「なんで知ってるの!?」
「もちろん知っていますよ。そもそも、このテストを返却したのは僕なのですから」
「あっ⋯⋯! そういえばそうだった!!」
うららはすっかり至が教科担任であることを失念していた。
しかし、今ならばこのままの勢いで押し通せそうだとうららは本題に入る。
「じゃ、じゃあさ⋯⋯ご褒美も、くれる?」
「約束は君に強引に取り付けられたものですが⋯⋯生徒の頑張りには出来るだけ報いたい。僕に出来る事ならば可能な限り叶えましょう」
意外にも至は乗り気だった。うららは食い気味に返事をする。
「ホント!?」
「ええ。⋯⋯それで、内容は?」
「あ、あのね————」
うららは今更ながら恥ずかしくなり、モゴモゴと口籠る。
「至センセーにね⋯⋯」
「はい」
「⋯⋯⋯⋯センセーに、頭ポンポンってしてもらいたい」
「⋯⋯え?」
囁くような小声だったが、しっかりと至の耳には届いたようだ。至はうららの求めるものを聴いた途端、薄い唇をポカンと開けて惚けている。
(やっぱり、ダメ⋯⋯?)
不安に駆られたうららは、一向に正気に戻らない至のセーターの裾を摘んでおずおずと口を開く。
「じゃっ、じゃあ撫でなくて良いから、頭の上に手を置くだけでもいいの! ねえお願い、センセー⋯⋯」
うららは懇願するようにそう言って、潤んだ瞳で至を見上げた。
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