ドキドキ♡テスト返却
遂に今日、中間テストが返却される————。
うららは朝、ベッドから起き上がった時から今までずっとそわそわと落ち着かないようすだった。
朝のショートホームルームが終わり、いよいよ審判の時が訪れようとしている。
(怖い怖いこわい⋯⋯⋯⋯)
ごくりと唾を呑む。祈るように握った手には、緊張からじっとりと汗をかいていた。
1限目は数学————うららの天敵である。
斉藤が前方のドアからいやにゆったりとした足取りで入ってきた。その手には数十枚のプリントが抱えられている。
「それでは、皆さんお待ちかねのテストを返却したいと思います」
斉藤は僅かに弾んだ声で滅多に見せない笑顔で言った。
「この時が一番楽しそうだよね、斉藤って」
隣の百香が声をかけてきた。
「ほんとそれ! 嫌味な性格してるよ」
うららは教壇に立つ斉藤を睨み付けながら同意する。
「うららはアイツに目つけられてるもんね。ご愁傷様」
「そんな他人事みたいに言わないでよぉ⋯⋯」
「ウチからしたら他人事だし」
「ももちぃ冷たァ⋯⋯!!」
そんなやり取りをしているうちに、百香の名前が呼ばれる。スタスタと軽い足取りで教卓の前に行き、斉藤からテストを受け取った。
「どうだった⋯⋯?」
自席に戻ってきた百香の表情からは結果の良し悪しが窺えなかったため、うららは恐る恐る尋ねる。
「悪くは無かったよ」
「悪く無いって⋯⋯40点とか?」
「ンなわけあるか。90点だよ」
「きゅっ⋯⋯!? きゅきゅきゅきゅうじゅってん!?」
想像した以上の高得点にうららは目を剥いてガタンと椅子を揺らした。
「わっ、悪くないどころかメチャクチャ良い点じゃんっ!? ももちぃの基準どうなってんの!!」
「まぁ、秋月ほどじゃないけど理数系も苦手ではないから。でも、文系教科に比べたら低いよ」
「住む世界が違いすぎる⋯⋯⋯⋯」
うららは呆気に取られ、思わず嘆声をもらした。
✳︎✳︎✳︎
「次は⋯⋯常春さん」
遂に、うららの名前が呼ばれた。
(き、きた!!)
机の引き出しにゴツンと身体を打つけながら立ち上がり、震える足で歩を進める。
「⋯⋯はい、どうぞ」
教卓の前に辿り着くと、斉藤はどこか残念そうな表情を浮かべながらテストを手渡してきた。
(⋯⋯? いつもなら薄ら笑いで渡してくるのに)
うららは僅かな違和感を感じたが、それよりも今は自身のテスト結果の方が重要であると直ぐに返却された用紙に目を向ける。
「!!」
赤色で大きく書かれた点数を見るなり、うららははっと息を呑む。
それからにんまりと口角を上げて斉藤に背を向けて歩き出した。
「⋯⋯なぁ、うらら。どうだった?」
弾むような足取りで席に戻る途中、呉羽に声を掛けられた。うららの事を気遣っているのか、こそこそと内緒話をするような声量だ。
「うん。⋯⋯見て」
「!」
うららはにやける口元をカーディガンの袖で隠しながらテスト用紙を手渡した。
呉羽は目を丸くした後、ジッとうららのテストに見入る。
(そんなに見られると恥ずかしい⋯⋯)
うららはなんだか居た堪れない気持ちになる。
「うっうらら⋯⋯こんなに成長して⋯⋯俺は嬉しいよ!!」
しばらくの沈黙の後、顔を上げた呉羽は涙を浮かべていた。
「ちょっと、呉羽! 泣かないでよっ」
「仕方ないだろ!? 長年うららの幼なじみやってるけど、こんなに良い点数見た事ないんだから⋯⋯!!」
それから、テスト期間と同様に2日間にかけてテストの返却が行われた。
結果は数学が31点、理科が33点、社会が35点、英語が32点。そして、国語が41点————。
百香と呉羽との勉強会のおかげでうららは高校に入ってから初めて、全ての教科で赤点回避を果たしたのだった。
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