接近の昼休み
「至センセぇ~⋯⋯入っても良い?」
うららは国語準備室の前に立ち、扉をノックする。昼休みに至がここで昼食を摂っているのは調査済みだ。
「⋯⋯⋯⋯どうぞ」
少しの間の後、中から落ち着いた低い声が聴こえてくる。了承の返事を聴いたうららは嬉々としてドアノブを捻った。
「しっつれいしま~す!」
教室の半分ほどの広さがある国語準備室は、黒のデスクにソファ、棚などインテリアの殆どが黒一色で統一された落ち着いた雰囲気の部屋だった。
(何か、至センセーっぽいな⋯⋯)
うららは興味深そうにキョロキョロと室内を見回す。パソコンの置かれたデスクの上には、書類の束が幾つも山積みになっていた。
「珍しいですね、常春さんが準備室に来るだなんて」
至は机の上に広げていた緑茶とおにぎりを袋へと仕舞いながら言った。
(あっ⋯⋯危うくここに来た目的を忘れるところだった⋯⋯!!)
「あ、あのねっ、今日の授業で分からないところがあったからセンセーに教えて貰いたいなぁ~って思って!」
「もちろん良いですよ。君が勉強に興味を持ってくれて嬉しいです」
「あっ、でも⋯⋯センセーこれからご飯だよね? 食べてからにしよっ」
「ですが⋯⋯⋯⋯」
「こんな事もあろうと、あたしもお弁当持って来たから! ここで食べても良いでしょ⋯⋯?」
うららは出来うる限りの可愛い顔を作り、上目遣い気味に懇願の視線でジッと至を見つめる。
「⋯⋯⋯⋯今回だけですからね」
「やったぁ!!」
作戦は成功したようだ。うららは心の中で発案者の百香に感謝し、グッとガッツポーズを作る。
(ももちぃ、ありがと! あたし、やってやんよっ!!)
部屋の中心にあるテーブルを挟んで至とうららはソファに腰掛ける。
「⋯⋯センセーはお昼それだけ?」
うららは机の上に置かれたおにぎり2個とインスタントのカップ味噌汁、そして500mlのペットボトルの緑茶に視線を落とした。
「はい、そうですよ」
「ええ~⋯⋯それじゃ健康に悪いよ。⋯⋯ね、一昨日とか昨日とか、今日とか⋯⋯諸々のお礼にあたしが作って来ても良い?」
「⋯⋯気持ちは嬉しいのですが、教師が生徒から個人的に何かを受け取るわけには行きません」
「え~⋯⋯わかった⋯⋯」
至の頑なな態度にこれ以上何を言っても無駄だと悟ったうららは、頰を膨らませながらも渋々と納得するのだった。
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