中間テストと百香の激励
私立四季ヶ丘高校の中間テストは2日間にわけて行われる。今回の日程は1日目に数学と国語、2日目は理科、社会、英語。
初日から天敵である数学に挑まなくてはならないうららの憂鬱な心境は計り知れない。
(今回こそは斉藤のあんな顔見たくない⋯⋯)
うららのいう『あんな顔』とは、テスト返却時の斉藤の表情のことである。
彼はうららが名を呼ばれ教卓まで向かう間、ジッとテスト用紙に目を落とす。そして、重い腰を上げてやっとの思いで辿り着いたうららへと薄ら笑いを浮かべて真っ赤なチェックで埋め尽くされたプリントを突き付けるのだ。
(クソぅ、思い出しただけで腹立ってきた)
イライラを発散させるためにガタガタと机を揺らす。
しかし、そんな中でも視線だけは数学の教科書に向けられていた。
(最後の最後まで公式を詰め込む⋯⋯!!)
うららは未だに意味を理解出来てない公式を教科書の隅っこに書きながらブツブツと呟く。目と耳、そして手から覚える作戦だ。こうする事で記憶力が格段に上がるらしい。
ふと隣の百香を見ると、メンヘラ御用達の某有名キャラクターがプリントされたコンパクトミラーを片手に、ビューラーで長いまつ毛のカール具合を調整していた。前方には机の上に突っ伏してすうすうと気持ちよさそうに寝息を立てる呉羽。
————どうやら、頭の良い親友と幼なじみに最後の追い込みは必要無いらしい。
うららは時間の許す限り、頭をフル回転させて必死に奇怪な数列を脳内に刻み込んだ。
夜通し慣れないことをしたせいでズキズキと痛みぼうっとする頭にムチを打つ。
そうこうしているうちに、試験監督の先生が前方のドアから入室し、裏返したテスト用紙を配り始める。
(は、始まる⋯⋯⋯⋯)
うららは緊張からごくりと唾を呑み込む。すると、視界の端からニュッと細い指が伸びてきて机の端をコツコツと叩く。
「ももちぃ⋯⋯?」
弾かれたように横を向くと、こちらをジッと見つめる百香がいた。
「いいか、うらら。始まったらとりあえず覚えてる公式を用紙に書け。そして、選択式の問題はたとえ分からなくても適当に選べば当たる可能性もある。最後まで諦めんな」
「もっ、ももちぃ⋯⋯!!」
少々冷たいながらも、百香なりの激励を受けたうららの表情はパァッと明るくなる。うららは今すぐに抱きつきたい衝動をどうにか抑え込み、優しい親友にあふれんばかりの笑顔でお礼を言った。
「ありがとう、ももちぃ。あたし、頑張る!!」
「ん」
百香はフッと笑みを見せて、直ぐに前を向く。
耳馴染みのある電子音が聴こえる。終焉を告げるチャイムだ。
それを合図にして皆が一斉にプリントをひっくり返した。ピリピリと緊張感が漂うシンとした教室内に反響する小気味良い音。
(とりあえず今のあたしに出来ることはやった。後はどうにでもなれっ⋯⋯!!)
グッと気合いを入れ直したうららは、机上に放り出されたシャープペンシルを握った。
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