百香と呉羽のスパルタ勉強会②
「じゃあウチはアンタ専用の小テスト作ってるから、その間に秋月に一番苦手な数学教えてもらいな」
「はいっ! よろしく、呉羽」
うららは元気よく返事をしてから呉羽に向き直り、ぺこりと軽く頭を下げた。
「おう! じゃあ、時間も惜しいし早速やるか」
「⋯⋯うん」
うららは小さく返事をしてからテーブルに目を落とした。窓から差し込む夕暮れの光が忌まわしき数学の教科書を照らしている。
うららは意を決して、恐る恐るそれに手を伸ばす。
(ゔッ! 教科書見るだけで具合悪くなりそう⋯⋯⋯⋯)
震える手でまだ真新しい教科書を捲る。
3年生になってから1か月以上経つというのに、折り目も書き込みも無い新品同然のものだ。
パラパラと教科書を捲って最初に目についた文字————。
「ビブン、セキブン⋯⋯?」
聞き馴染みのない言葉に、うららは瞳を瞬かせる。
「カタコトって⋯⋯まじかよ、うらら」
「え? 何が?」
「授業聴いてたら微分積分なんてしょっちゅう出てくるだろ? 授業、受けてたよな⋯⋯?」
「もうっ! 呉羽、あたしの事バカにしてる? 居たに決まってんじゃんっ!」
「だ、だよな⋯⋯! ごめん⋯⋯」
呉羽はうろうろと視線を彷徨わせ、気不味そうな顔でそう言いながら自らの教科書を手に取った。数ページ捲ってからそれをうららに向ける。
「じゃ、じゃあ初っ端から話が逸れたけど勉強始めるか。先ずは⋯⋯うららの苦手なところから潰していこう。今回の範囲で一番分からない箇所ってどこだ?」
「⋯⋯分からないところ?」
「ああ」
「⋯⋯そんなの全部だけど? ってか、最早あたしくらいのレベルになると数学とは相容れないから、分からないところすら分からないから」
うららは完全に開き直り、得意げにそうのたまう。
「う、うらら⋯⋯」
呉羽に可哀想なものを見るような目で見つめられる。どうやら彼は、うららにどう声を掛けたら良いのか考えあぐねているようだ。
(あたしの勝ち、だ⋯⋯!)
うららは勝ち誇った笑みを浮かべる。
すると、すぐ隣で2人のやりとりを聴いていた百香から「そんなことは威張らんでよろしい!」という声と共に手刀が飛んできた。
ビュンっと風を切りうららの頭部に着地したそれは、確実に急所を捉える。重い打撃にぐわんぐわんと脳が揺れ、じわりと生理的な涙が浮かぶ。
「痛ッたあ!? ⋯⋯ちょっと、ももちぃ! これ以上バカになったらどうするのさっ!?」
「アンタに『これ以上』は無いから安心しな。⋯⋯それに、壊れた電子機器って叩いたら直る場合もあるじゃん?」
「あたしは正真正銘人間なんですけど⋯⋯!?」
人間扱いすらされない事に、更に視界がにじんだ気がした。
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