必死の懇願
「あたし⋯⋯勉強するっっ!!」
ショートホームルームが終わり、クラスメイトたちが帰り支度をする最中、うららは腰に手を当てながら声高らかに宣言する。
「は⋯⋯⋯⋯?」
隣でうららの唐突な意気込みを聴いた百香はポカンと口を開けた。
そして、暫しの間呆けていたかと思えば、スッと目を細めてうららを見やる。
「アンタ⋯⋯今更になってその宣言は何? テスト勉強頑張るって言ってなかった?」
「あ、あはっ⋯⋯一応やってたよ!? ももちぃのノートは写した!」
「⋯⋯写して、それから?」
百香は責めるような視線を向ける。ブラウンの瞳がうららを射るようにギラリと輝いた。
「ゔッ⋯⋯!!」
「うらら⋯⋯アンタさぁ、今の状況わかってる?」
「⋯⋯⋯⋯」
モゴモゴと口籠るうらら。それを見た百香は大きなため息を漏らした。
「ねぇ、明日は何があると思う?」
「⋯⋯⋯⋯ちゅ、中間テスト」
「そう、中間テストがある。でも今からじゃもう間に合わないね。それじゃ」
口を尖らせながら渋々と答えたうららを横目に、百香は別れの言葉を告げくるりと背を向けて扉に向かって歩き出す。
「っ⋯⋯!!」
(このままじゃ⋯⋯このままじゃセンセーからのご褒美が⋯⋯!!)
「ゔッうわーん⋯⋯!! ももちぃ、助けてッ!!」
うららはプライドも何もかもをかなぐり捨て、教室を去ろうとする百香の脚に縋り付いた。
「!?」
予想外の出来事に目を見張る百香。
「ももちぃ⋯⋯あたしのこと見捨てないでよぉ⋯⋯!」
一瞬面食らったようすを見せたものの、直ぐに平静を取り戻した百香はみっともなく泣きつくうららに冷ややかな視線を向ける。
「ちょっと⋯⋯! 重いってば⋯⋯!」
百香はどうにかして纏わりつくうららを振り切ろうと、華奢な脚をブンブンと力任せに振り回した。
「あ痛ァッ⋯⋯! でもそのくらいじゃあたしは離れないからねっ!!」
「きーもーいッ~!! 一旦離れろっ!」
「やだよぉっ! 今離したら帰るつもりでしょ!?」
話し合いの最中、ゴツンと百香の膝小僧がうららの鼻に直撃する。しかし、絶対に離してなるものかと必死に食らい付く。
「ねっ、ねっ!? お願いだから一緒に勉強しようよ!?」
「無理ッ!」
「なっ、なんでぇ!? ももちぃが冷たいよぅ⋯⋯」
「ちょっと! なんかウチが虐めてるみたいになるからやめてよっ⋯⋯!!」
容赦ない拒絶の言葉を突き付けられ、わんわんと人目も憚らずに泣き喚くうらら。それを見たクラスメイトやA組の教室を通りがかった生徒たちが何事かと集まり始めていた。
この光景だけ見ると、まるで百香がうららを足蹴にしているようだ。
そのことを察した百香ははぁ、と身体の奥底から絞り出したような大きなため息を吐いた。
「分かったから⋯⋯。一緒に勉強するから、もう離して⋯⋯⋯⋯」
「やったぁ!! ありがと、ももちぃッ♡」
それまで死に物狂いで纏わりついていた脚から手を離し、にっこりと潤んだ瞳で笑いかける。
————うららの粘り勝ちが確定した瞬間だった。
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