荒んだ心
うららはゲームセンター、カラオケボックス、ディスカウントストアなど思い付く限りの場所へと足を運んだ。
しかし、そのどこにも至の姿は見当たらなかった。
(なんで探してる時に限って会えないの!? まさかセンセー、あたしのこと避けてるわけじゃないよね⋯⋯!?)
「仕方ない、こうなったら————」
嫌な思い出が頭の隅で蘇るが、背に腹はかえられない。うららは思い切って至と運命の出会いを果たしたラブホテルが立ち並ぶ一画を目指す。
この作戦を始めてから毎日、ホテル街まで足を運んではいるものの、何の成果も無いばかりか一人で当てもなく彷徨い続けるうららに向けられるのは好奇の視線。そして、偶の冷やかしに声を掛けてくる男たち。
自身にもその原因の一端はあるのだが、不快極まりないそれらにうららはほとほと疲弊していた。
(いつもは出来るだけ早歩きで通り過ぎるだけだけど、今日はもうちょっとじっくり探してみよう)
一際ネオンの光が明るい一画に足を踏み入れた。
一つ路地に入るだけで纏う空気がガラリと変わる。目に痛いほどにビカビカと輝きを放つ妖しい電灯と腕組みをしてゆったりと歩を進めるどこか浮き足だった男女の群れ。
今のうららは不幸の真っ只中だというのに、幸せそうなカップルを見ると羨む気持ちとともに一層心が荒んだ。
(⋯⋯あの繋いだ手の間を通ってやりたい)
固く繋いだ手と手の合間を通ってその繋がりを断ち切れたのならばどれだけ心が晴れるだろうか————。そんな考えが頭を過ぎる。
(そんな事してもどうにもなんないのに⋯⋯。早く至センセーに会いたいよ⋯⋯!!)
「もうっ⋯⋯! 一体センセーはどこに居るのっ!?」
投げやりにそう呟くうららはいつの間にか通りの端の方まで来ていた。もう少しでホテル街を抜ける、というところで不意に言い争うような声が耳に入る。
(⋯⋯⋯⋯?)
声が聞こえた方へと足を向けると小さな人だかりが出来ていた。
(⋯⋯!!)
ハッと息を呑む。
その中心には、うららが今まさに探し求めていた人物がいた。至の姿を見るなり、それまで荒れに荒れていた心はスウッと凪いで、うららの表情はキラキラと輝く。
「至セン————」
「おい、邪魔すんなよっ!!」
うららはすぐさま手を振って駆け寄り、声を掛けようとする。しかし、残念なことにうららの声は若い男の怒号により遮られ掻き消されてしまった。
(もうっ! 最近こんなんばっか⋯⋯!!)
怒りでわなわな肩を震わせていると、遮った人物は至に掴みかからんばかりの勢いで捲し立てた。
「こんなとこまで付いて来ていい加減ウゼーんだよッ!! 俺たちがどこに居ようとアンタにはカンケーないだろ? な、ユミ?」
「うん! ま~くんの言う通りだよぉ」
「関係無くなどありません。君たちはまだ高校生なのですよ。こんなところを歩き回って良い年齢ではありません」
至は怯む事なく淡々と言い放つ。因みに、彼の言う『こんなところ』とは無人のラブホテルの事を指している。
(コイツらは確か⋯⋯校内でも有名なバカップル⋯⋯興味なさすぎて名前は知らんけど)
視線の先には見るからにチャラい長身の金髪の男と、同じく金髪の長い髪をくるんと巻いた小柄な女がいた。どちらも私服で一見すると大学生に見える。
(とりあえず、どんな理由があろうともあたしと至センセーの時間を邪魔したコイツらは許さん⋯⋯。っていうか、センセーもセンセーだしっ! ソイツらじゃなくてあたしを見つけてよ⋯⋯!!)
うららは的外れな八つ当たりをし、怒りのままに彼ら目掛けて一直線に歩いて行く。
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