姑息な手段
またしても陽葵にしてやられたうららが取った行動は、夜間に出歩き至に見つけ出して貰うということだった。
————これは、前回家まで送って貰ったことに味を占めての作戦である。
(生徒指導の先生は定期的にこの辺りを見回ってるはず! っても、さすがに毎日ではないと思うから、至センセーの当番の日を探らなくっちゃ⋯⋯!!)
ひとまず、今日から一週間毎日歓楽街へと繰り出す事を決意するうらら。
そしてそんな事を企てるうららは当然の如く、テスト期間にも関わらず勉強は全く進んでいなかった。成果といえば、テスト範囲のノートをやっと写し終えたくらいである。
時々、放課後の空いた時間を使って百香が教えてくれるものの、今のうららの頭には全くと言っていいほど入らず、右の耳から左の耳へ抜けて行く始末だ。
百香も多忙(主に新しくできた彼氏とのデート)であるため、うららの現状を把握してはいなかった。彼女もまさか、真面目に勉強すると言ったそばからそれらを放り出して夜の街を彷徨っているとは思うまい。
(こんなのズルいしダメな事だって分かってるけど! でも⋯⋯あたしにはこれしかセンセーの気を引く方法が思い付かないんだもんっ!!)
そう自分に言い訳をして、時折思い出したようにパパ活をしつつ、至と出会った場所へと足を運ぶ。
「悔しいけど夏川がちょっとだけ羨ましい⋯⋯。だって、至センセーにとってあたしはただの生徒だから、あたしがセンセーに近付くにはこのくらいしないといけないんだ⋯⋯!」
(怒られたって呆れられたっていい。⋯⋯センセーがあたしを見てくれるならっ!!)
✳︎✳︎✳︎
ここ数日、暗くなるなり至の姿を求めて街中を歩き回るうららだったが、未だにその姿を見つける事は出来なかった。
しかし、いつ何時出会っても良いように今日もめいいっぱい背伸びしたコーディネートとメイクで自身を固めて夜の街へと繰り出す。
(今日こそ⋯⋯今日こそは居るはず!!)
「とりあえず、不良が居そうなところ行ってみるかぁ⋯⋯」
うららは辺りを見回しながらゲームセンターに向かって歩き出す。
眩しいくらいのネオンに賑やかな機械音、店内放送が絶え間なく流れるゲームセンター。それらに引き寄せられるようにして集まる不良たち。孤独な夜闇を凌ぐには恰好の溜まり場である。
(前はこの人だかりを歩くだけでほんの少しだけ寂しさが紛れたのに、なんだか今は虚しいだけだ⋯⋯)
すると、不意に目についた有名ブランドの洋服店。ライトに照らされたショーウィンドウに映る自身の姿を見て、思わず立ち止まる。
「あたし、何やってるんだろ⋯⋯。こんな派手なメイクに服装、絶対に至センセーの好みじゃない⋯⋯⋯⋯」
そう言いながらそっと頬に手を這わせた。
煌びやかなネオンにも負けないような濃いめのアイシャドウに真っ赤なリップ。背中が大きく開いたワンピースに強めに巻いた髪の毛。
最近ふと、正気に戻った時にうららは果てしない喪失感に襲われる。
(なんであたしってこんなんなんだろ⋯⋯。せっかく勉強頑張って褒めて貰おうと思ってたのに、こんな事⋯⋯やっぱり人ってそう簡単には変われないものなんだね⋯⋯⋯⋯)
「⋯⋯でも、こうでもしなきゃそうそうチャンスなんてやって来ないもん」
うららは泣き出したい気持ちをグッと抑えて歩を進める。
「あたしは————うららは、間違ってない」
そう自分に言い聞かせながら、うららは今日も至の姿を求めて彷徨い続けるのだった。
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