雨夜の月
一方的に至へと約束を取り付けたうららは、早速本日から本格的にテスト勉強に取り組む事にした。
「⋯⋯っても、自分の家じゃだらけちゃうか掃除始めちゃうからなあ~」
頭の後ろで手を組み、足を投げ出してだらしの無い姿勢で椅子に腰掛けたうららはどうしたものかと一人呟く。
「それなら、学校で勉強してけば?」
「⋯⋯え?」
「うららの場合、学校で勉強した方が捗るんじゃないの? ここだと適度な緊張感があって集中できそうだし、分からないところがあったら直ぐ聞けるし」
うららは「それもそうだ」と百香の提案に納得する。しかし————
「ももちぃは残ってくれないの?」
どうにかこうにか頼み込んで勉強を教えて貰うことになった筈なのだが、いやに他人事な百香にうららは一抹の不安を覚えた。
「ウチはムリ。今日、デートだから」
きっぱり言い切る百香。うららはがっくりと肩を落とした後、すぐに我に返って『デート』という言葉に食い付いた。
「えっ! ももちぃ、もう彼氏出来たの!?」
「まあね。次は歳下」
「相変わらずモテモテですなぁ~。羨ましい⋯⋯」
感嘆のため息を漏らす。百香との親友歴は3年目に突入したが、こういう面を見せつけられると住む世界が違うのだと改めて実感させられる。
(そういえばももちぃって、なんであたしと親友やってくれてるんだろ⋯⋯)
自分には徳しか無いが、百香には百害あって一利なしではないのだろうか。突如として、そんな不安にうららは駆られる。
(思い返してみても、迷惑かけてばっかりだもんなぁ⋯⋯。至センセーにもだけど、ももちぃにも捨てられたらあたし、生きてける気がしない⋯⋯⋯⋯)
うららが一人涙ぐんでいると、百香が訝しげな視線を向けながらも口を開いた。
「とりあえず、今日は無理だけどノートだけは貸すからこれ使って勉強してなよ」
「っ! ありがとうございます、ももちぃ様~⋯⋯!!」
キラキラと瞳を輝かせ恭しく礼をしながら百香が差し出した数冊のノートを受け取る。
どうやら、今日授業のあった教科のものを全て貸し出してくれるようだ。
(ももちぃ、優しい♡やっぱり持つべきものは頭の良い親友だねっ!)
目の前に吊り下げられたエサに、大はしゃぎのうらら。その長所とも呼べる単純な思考からは、先ほどまでの不安は何処かへと飛んで行っていた。
✳︎✳︎✳︎
コツコツと窓を叩く雨音に気が付いて顔を上げる。
(あ、もうこんな時間⋯⋯⋯⋯)
見ると、薄暗くなった教室内にはうらら以外誰も居らず、周囲に誰かが居る気配も無かった。
「めっっちゃ集中してたな⋯⋯」
(⋯⋯って言っても、今までずっとノートを写してただけで実際にはこれっぽっちも勉強なんか出来てないんだけど)
時計に目をやるともうすぐ7時になるというところで、時間を意識した途端にキュルキュルと鳴り始めた単純すぎる自身の腹の虫にクスリと笑みを洩らす。
「お腹空いたなぁ。あたしにしては頑張ったし、今日はここまでにしてそろそろ帰ろうかな~っ⋯⋯と」
そう言って伸びをする。長時間同じ姿勢を取っていたせいで凝り固まった身体を解した。
すると、新鮮な空気を取り込んで冴え渡ったうららの脳裏にとある妙案が降って来る。
「ん⋯⋯? 待てよ、これってもしかしてチャンスなんじゃ⋯⋯?」
チラリと窓に目を向ける。
外では雨が降っており、傘をささなければものの数秒で濡れ鼠になってしまうほどの大雨だ。
(至センセーだもん、きっと傘なんて持って来てないよね⋯⋯? もし持ってたとしてもあたしが持ってないことにすれば————)
「相合い傘が出来るっ!!」
これはまたとないチャンスだと、うららは勢いよく立ち上がった。大慌てでノートを鞄に詰め込み、教室から飛び出す。
外界から閉ざされた2人きりの空間で不意に触れる互いの肩、恥ずかしそうに逸らされる視線、少し速い息遣い————。
(これは間違い無く、センセーとの関係が進展するっ!!)
「センセー、今行くからね⋯⋯っ!!」
期待に胸を膨らませるうららは全速力で至が居るであろう国語準備室を目指し階段を駆け上がるのだった。
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