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至からのプレゼント






「そうでした、常春さんに渡したいものがあるんです」

「えっ⋯⋯!! なになに!?」


 うららは表情をパッと表情を明るくさせて、至を見つめる。


「え~っと⋯⋯ちょっと待ってくださいね⋯⋯⋯⋯」


 至はそう言って、どこからか2つ目のビニール袋を取り出してゴソゴソと中身を漁る。


「え~♡ なんだろ? センセーからのプレゼントなんて初めてだよねっ!」


 うららの心臓の高鳴りは最高潮にまで上り詰めていた。


(バラの花束とか、ペアの何かとか!? おそろの服でリンクコーデもアリかもっ! ううん、もっももももしかしたら指輪って可能性もあるよね!? センセーってば、気が早いよぉ⋯⋯♡)


 頬を染めくねくねと身体をくねらせながら妄想を繰り広げるうららに構うこと無く、至はコンビニエンスストアの袋から取り出したものを次々にテーブルの上へと並べていく。


「さあ、どうぞ」


 心なしか満足げな至の声でうららはハッと我に返る。そして、テーブルの上を見るなり目を見張り声を荒げた。


「なっ、なにこれ⋯⋯!?」

「スイーツです」


(それは見れば分かるよ、センセー!!)


 うららの視線の先には、ショートケーキを始めとした多種多様なケーキ類に一世を風靡ふうびしたマリトッツォやマカロンにカヌレ、そして苺大福やどら焼き等の和菓子。それらがいつの間にか所狭しと並んでいた。


「こんなにたくさん、誰が食べるの⋯⋯?」


 うららは思わず頬をヒクヒクと引きらせながら尋ねた。一体、コンビニスイーツにいくら使ったのかと聞きたくなるようなお菓子の数々にくらりと目眩を覚える。

 この一角だけを見れば並のコンビニエンスストアは真っ青だろうというほどの錚々《そうそう》たるラインナップに『業者かよ!』とツッコミを入れたくなるが、うららはグッと既のところで耐え抜いた。



「常春さん以外に誰が?」


 至はきょとんとした後、さも当然というように答える。


「う、嬉しいけど⋯⋯なんで?」

「これは正当なる対価なんです」

「へ⋯⋯? たいか?」

「ええ。僕は今までに何度か常春さんからおかずを分けて貰っていたでしょう? いくら秋月君用に作ったものとはいえ、御相伴に預かったのは僕なのですからお返しをするのは当然かと」

「な、なるほど⋯⋯?」

「君の好みが分からなかったので、取り敢えずいくつか購入してみましたが⋯⋯」

「!?」


(これでいくつか!? センセーの中では少ないってことなの⋯⋯? 社会人の財力⋯⋯恐るべし!!)


「この中に気にいるものはありましたか?」

「え? う、うん」

「⋯⋯! 良かった」


 うららが頷くと、至はホッと息を吐いた。


「もちろん、一つと言わずに全て食べても良いのですよ。これは君の為に買ったものですから」

「あたしの、為⋯⋯?」

「はい」


(正直、いくら甘いものが好きっていっても限度があるし、センセーに言いたい事は山ほどある⋯⋯。でも、これが全部あたしの為⋯⋯。つまりこれは至センセーからあたしへの『愛』⋯⋯。それなら当然————)


「センセーありがとう! 全部食べるっ!!」




✳︎✳︎✳︎




「ゔっ⋯⋯!!」


(当分、生クリームは見たくない⋯⋯。絶対一週間分のカロリーは摂取した気がする⋯⋯。とりあえず今日の夜は抜いて、しばらくはダイエットしなきゃ⋯⋯⋯⋯)


 一瞬でも気を抜けば逆流してしまいそうなスイーツたちを気力だけでどうにか飲み込む。

 コンビニスイーツは一つ一つは小さめとはいえ、相当な数を愛の力で平らげたうららの胃は許容量を遥かに超えて食道にまで胃の内容物が侵入して来ていた。



(やっと⋯⋯やっと、教室⋯⋯⋯⋯!!)


 よたよたと壁を伝い覚束無い足取りで腹部と口元を抑えながら歩き続け、ようやく安寧の地が見えて来た。


「うっぷ、これはガチめにやばいかもしれん⋯⋯スカート⋯⋯スカート脱ぎたい⋯⋯⋯⋯」


 うららははちきれんばかりに膨らんだ己の腹をさすりながら呟く。スカートのウエスト部分の締め付けがより一層、吐き気を増長させていた。


 今すぐにスカートを下ろしジャージに着替えられたなら、どんなに幸せな事か————。

 糖分の過剰摂取と壮絶な吐き気により、現実逃避を始めた脳内に鞭を打ちながら目前まで迫った3年A組の扉に手を伸ばした。



「ゔォエ⋯⋯っ!」


 教室の扉を開けたところで力尽きて、その場に倒れ込む。


「うらら!?」

「も、ももちぃ⋯⋯」


 真っ青になり膝をついたうららを見た百香がすぐさま駆け寄る。そして、うららの腹部を見た彼女は目を見張った。


「う、うらら⋯⋯それ————」

「うん⋯⋯」

「ついにヤったんだ⋯⋯」

「うん⋯⋯ ♡」


 うららの腹に百香の手が伸びてきて、優しく撫でる。


「⋯⋯今、何ヶ月?」

「3ヶ月⋯⋯ってンなわけあるかっ!!」

「(笑)」

「もうっ! 吐きそうなんだからこんなことやらせないでよね!?」

「あはは、ごめんごめん。んで、なんでそんな事になってるわけ? ウケるんだけど」


 ボケとノリツッコミを終えて、一頻り笑い終えた百香は改めてうららの惨状を見やる。スラリとした長身な体躯に不釣り合いなほどに膨れた腹、青ざめて苦しそうに歪んだ顔。


「これはね、至センセーからあたしへの愛の証なの⋯⋯ ♡」

「⋯⋯は?」

「センセーがね、お弁当のお礼にってお菓子をくれたの」

「ふうん?」


 いまいちこの状況と繋がらないという表情をする百香に、国語準備室で撮った写真を見せる。


「!!」

「⋯⋯すごいでしょ?」

「まさか、アンタ⋯⋯これ全部食べたの?」

「もっちろんっ♡あたしがセンセーの愛を残すわけないじゃんっ!? それに、あたしが美味しそうに食べるとセンセー、すっごく喜ぶんだもん!!」


(センセーの嬉しそうな顔見たら太るとか、お腹いっぱいとかそんなのどうでも良くなっちゃうに決まってる! あたしはこの恋にタマ張ってんだッ!!)


 先ほどの幸せな光景を思い出しながらキラキラと瞳を輝かせて語り出すうらら。


「アンタは本物だよ⋯⋯ホンモノの、バカ⋯⋯⋯⋯」


 百香はどこか遠くを見ながらそう言ったのだった。









貴重なお時間をいただきありがとうございました!

ここまで読んでいただけて嬉しいです!

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