鏡よ鏡よ、鏡さん。世界で一番かわいいのはだぁれ?
「はい、それでは今日はここまで。各自、次の授業までに復習をしておくように」
「っ!!」
(や~~っっと終わったっ⋯⋯!!)
4時限目の授業————昼休みの時間を告げるチャイムと共に苦痛だった数学の授業が終わり、うららは跳び上がるようにして椅子から立ち上がり、その場で伸びをする。
授業が終わった途端に、それまで眠たそうに細められていたうららの碧い瞳がぱっちりと開く。水を得た魚のように活き活きし出したうららを恨めしそうにジロリと一瞥した斉藤は、行き場の無い怒りをぶつけるかのように乱暴な仕草で扉を開け、教室を後にした。
「おっ! もしかして、久しぶりにセンセーのところ?」
斉藤の後ろ姿を見送った百香が口を開く。
「うんっ! そうだけど⋯⋯よく分かったね、ももちぃ。もしかして親友パワー的な?」
「ンなわけあるか⋯⋯! そんなにニヤニヤしてたら誰にでも分かるわ」
「え~? そんなニヤニヤしてないよぉ~」
そう言いながらも、うららは頬が緩むのを止められなかった。
「はいはい、いいから早く行きなよ。こんなところでグズグズしてたら、あっという間に昼休み終わっちゃうよ?」
「はっ! そうだった!! んじゃ、行ってくるね、ももちぃっ!」
百香の声に背中を押され、弁当箱の入った巾着と教科書を抱えて駆け出そうとした時、うららははたと思い至り立ち止まる。
「ね、ももちぃ。⋯⋯今日のあたし、変なとこないよね?」
「?」
「だから制服とか髪型とか、メイクとか⋯⋯⋯⋯」
不思議そうに首を傾げる百香の前でうららはくるりと回ってみせた。
「ああ、そういうことね」
そう言った百香はうららの頭の天辺から爪先までを交互に見比べる。
「ど、どう⋯⋯?」
「うん、ウチが見た限りは大丈夫だと思うけど。かわいいかわいい」
「めっっちゃ投げやりじゃんっ!? ホントにそう思ってる!?」
「うん、思ってる思ってる」
百香は頬杖をつきながら投げやりな態度でコクリと頷く。
(こっコイツぅ⋯⋯!!)
どうにかして本気の『かわいい』を引き出したいうららは、ゆったりと椅子に腰掛ける百香に向き直る。
「⋯⋯かわいいって夏川よりも?」
うららは精一杯のキメ顔を作り、潤んだ瞳で百香を見やる。
「うん、かわいい」
即答だった。うららは少し考え込んでから再び口を開く。
「学年一かわいいって言われてるユーカよりも?」
「うん、かわいい」
最近かわいいと評判の後輩や文化祭でのミスコンで栄えあるグランプリの座に輝いた今は無き(卒業済みの)先輩、果ては国民的アイドルの名前を並べてみても百香の答えは変わらなかった。
その事に気を良くしたうららは最後に目の前の親友の名前を口にする。
「⋯⋯じゃあ、ももちぃよりも?」
期待を込めた表情で百香を見つめた。しかし、返ってきた答えは————⋯⋯
「それはもちろん————」
ごくりと唾を呑んで次の言葉を待つ。百香はうららの顔を見るなり、ニヤリと口角を上げて口を開いた。
「————ウチかな」
「⋯⋯っ! そこは『うららの方がかわいい』って言うところでしょーがっ!!」
賑わう教室内に、勝るとも劣らないような声量でうららのツッコミが冴え渡った。
✳︎✳︎✳︎
「⋯⋯急がなきゃ!!」
教室での百香との悪ノリにより、5分もタイムロスしてしまったうららは、汗をかかない程度の急ぎ足で1階から階段を駆け上がり3階にある国語準備室を目指す。
(もう少し⋯⋯っ!)
あと少しで準備室に到着するというところで、昼休みにも関わらずシンと静まり返る廊下に微かな話し声が聞こえてくる。
「⋯⋯?」
足音を殺し息を潜めて声の出どころを探ってみると、それは今まさにうららが向かおうとしていた国語準備室からだった。
(至センセーと⋯⋯誰?)
ピッタリと扉に耳をくっ付けて中の様子を探ってみても、くぐもった声が聞こえるばかりで声の主は一向に分からない。
(もっ、もしかして密会⋯⋯!?)
うららの知らぬ間に何処の馬の骨ともわからない女と仲を深めていたら————。
そんな不安に駆られパニックに陥ったうららは思わずドアノブに手を伸ばす。
「!!」
しかし、うららがドアノブを捻るのを待たずして扉が開いた。
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