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作戦コード:届け!愛のモールス信号!!





 朝一番の古典の授業中————。

 うららは強烈な眠気をミントタブレットでどうにか誤魔化しながら、一心にチョークを握り黒板に向かう至の背中を凝視していた。


(————よしっ!!)


 大きく息を吸い込み、心の中で意気込む。そして、机の上の所定の位置に腕を置き、グッと爪を立てた。


 ————ツートン、トントン、トンツー⋯⋯⋯⋯。


「-・ ・・ ・- ---・- -・-・・」


(『ダ・イ・ス・キ』っと⋯⋯。届けっ、あたしの気持ち!!)


 無事に一音も間違う事なく机を叩き終わり、至の反応を確認する為にバッと勢い良く顔を上げる。しかし、肝心の彼は前を向いたままだ。

 更には、熱心に解説を交えながら黒板にチョークを滑らせるカカカッという音に、うらら渾身の告白は掻き消されてしまう始末であった。


(そっ、そんなあ⋯⋯⋯⋯)


 うららは涙をグッと堪え、再び机に向き直る。そして「次こそは」と意気込みゴホンと大きく咳払いをした。


 ————ツーツーツーツー、トントンツートン⋯⋯⋯⋯。


「---- ・・-・ ・・-・- ・-・--(こ・っ・ち・見・て)」



 ————うららは思った。我が爪は、今この時この為に伸ばし磨き上げたと言っても過言ではない、と。

 色とりどりのストーンが散りばめられた爪先で軽快に机をノックするうらら。その風格はさながら、クラブハウスでDJがレコードをスクラッチしてプレイするが如く、華麗な座り姿と手捌きであった。


(キマった⋯⋯っ!!)


 うららの脳内で歓声が湧き上がり、観客が次々に立ち上がるスタンディングオベーションが巻き起こった頃、自分でも気付かぬうちに瞑っていた瞳をゆっくりと開いた。

 それと同時に、くるりと振り返った至と目が合う。


「!!」


 ドキンと大きく高鳴る鼓動。うららは期待を込めた瞳で至を見つめる。


(ホントにこっち見てくれた⋯⋯!! やっぱり、あたしたちは運命の糸で繋がってたんだっ!)


 うららが束の間の喜びに浸っていると、至は困ったような表情を浮かべて、それを粉々に打ち壊す一言を放った。


「⋯⋯常春さん、授業には集中しましょうね」

「えっ⋯⋯!」


 思ってもなかった言葉に、うららはポカンと口を開けてフリーズする。

 いつの間にか集まっていたクラス中の視線。途端に弾けるようにクスクスと笑い声が聞こえ、教室を包み込む生温い空気にうららは居た堪れない気持ちになった。




✳︎✳︎✳︎




「うらら、さっきのはどういうつもりな訳?」


 うららが机の上でうんうんと唸りながら頭を抱えていると、隣に座る百香がニヤニヤと笑いながら尋ねてきた。


「⋯⋯ももちぃ。⋯⋯あれはね、あたしから至センセーへの愛のシグナルなんだ⋯⋯⋯⋯」

「は?」


 百香にしては珍しく間の抜けた返事が返ってくる。


 至へのアタックを本格的に再開しようと心に決めたうららは、夜通し考え抜いた。

 そして、改めてうららは痛感していた。鈍感な彼の心を掴むには、まず自分の気持ちを素直に伝え、意識してもらう他ないと————。


 そうして思い付いたのが、さり気なく想いを伝えられる『モールス信号』を利用するという方法であった。

 思い立ったが吉日、うららは一睡もせずに容量の乏しい脳内にモールス信号を詰め込み、練習を重ねてよくやく本日、お披露目に至る。

 だというのに、結果は言うまでもなく散々なものだった。




「馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、遂にそこまでいったのか⋯⋯」


 可哀想なものを見るような目でうららを見つめる百香。うららは親友を憐憫れんびんの眼差しで見る彼女に、噛み付かんばかりの勢いで食ってかかる。


「ちょっと、ももちぃ! それどういう意味!?」

「そのまんまの意味だよ」

「~~~~っ! で、でもでもっ、センセーにはあたしの気持ち伝わったもん! だいすき、こっち見てって⋯⋯」

「ただ単に煩くて振り向いただけじゃない?」

「えっ、ウソぉ⋯⋯」

「いや、マジで煩かったから。もう騒音レベル」

「そっ、そんなぁ⋯⋯⋯⋯」


 うららはまたもや空回りした事実をまざまざと突きつけられ、ガックリと肩を落とすのだった。









貴重なお時間をいただきありがとうございました!

ここまで読んでいただけて嬉しいです!

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