夜の街で、至と陽葵と。
少し離れたところに見つけた至と陽葵の後ろ姿。一番見たく無い組み合わせを目の当たりにしたうららは動揺を隠せなかった。
(なっ、なんで至センセーと夏川がこんなところに⋯⋯!?)
うららが状況を呑み込もうと必死になっている間にも、陽葵は赤らんだ顔で力無く至の身体にしなだれ掛かった。
「⋯⋯!!」
学校では常に背筋を伸ばし完璧な笑顔を浮かべる陽葵からは考えられないような気を抜いた姿。そして、それを受け止める至にうららの胸は強く締め付けられる心地だった。
(もしかして、二人は付き合ってるの⋯⋯?これ以上見たくない⋯⋯でも⋯⋯⋯⋯)
傷付くだけだと分かっていても、前へと進む足を止めることは出来なかった。
二人の会話が聞こえる距離にまで近付くと、ざわざわとした喧騒に紛れて甘ったるい陽葵の声が微かに耳に入る。
「せんぱぁい⋯⋯私、なんだか酔っちゃいましたぁ⋯⋯」
「⋯⋯大丈夫ですか?」
うららからは至の表情は窺えなかったが、どこか親密な雰囲気が伝わってくる声音。
「ううん、ダメかもしれないです⋯⋯もうちょっとだけ、このまま⋯⋯⋯⋯」
そう言いながら、さらに密着する陽葵。その豊満な胸を至の胸板に押し付けるようにして抱き着く体勢になる。
「~~~~っ!!」
そんな策士な陽葵の行動に、ショックよりも怒りの値が振り切ったうららは心の中で毒づく。
(センセー、それ嘘だからっ⋯⋯! ってか、BBAがそんなことしても全ッ然可愛くないんだよっ!! 離れろ、今すぐっ!!)
地団駄を踏みたい衝動を抑え、再び聞き耳を立てる。
「水、持って来ましょうか?」
「そんなもの、いらないです⋯⋯」
「⋯⋯そうですか」
そう言ったきり、至は口を閉ざす。彼が陽葵の身体を突き放す気配は無かった。
(至センセー、抵抗しないって事は満更でもないって事だよね!? やっぱり、二人は付き合ってるんだ⋯⋯。それもそうだよね、うららはそうは思わないけど、夏川って可愛いみたいだし悔しいけどスタイルも良いし⋯⋯そりゃ、男だったら好きにもなるよ⋯⋯⋯⋯)
うららは底知れぬ絶望感に襲われ、この場から消え去りたい衝動に駆られる。
今まで目を背けていた現実を痛いほどに思い知らされ、それまで必死に我慢していた涙が耐え切れずに瞳から溢れ落ち、頬をつたって流れた。すれ違う通行人たちがチラチラと棒立ちで涙を流すうららを見やるが、そんな事を気にしている余裕など無い。
「センセーの、バカ⋯⋯⋯⋯」
うららはせめてもの意趣返しにとそう呟く。しかし、悪態を吐いてみても心は一向に晴れない。
ふっと全身から力が抜け、手にしていたクラッチバッグがドサリと音を立てて地面に落ちた。
「? 常春さん⋯⋯?」
不意に振り向いた至とパチリと目が合う。
(ま、まずいっ、見つかった⋯⋯!!)
ハッと我に返ったうららはすぐさま涙を拭う。
そして、落ちたバッグの事はすっかり頭から抜け落ち、身一つでその場から駆け出していた。
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