はじめてのパパ、高木さん。
高木に付いて一階の専用口からエレベーターに乗り込み、45階を目指す。
(何か、久しぶりだからちょっと緊張する⋯⋯)
うららは些か落ち着きのないようすでワンピースの裾をキュッと握りしめた。
今回行くレストランは寿司や天麩羅などの日本料理が楽しめる人気のレストランらしい。更には高所から見下ろす景色も最高だという事だった。
エレベーターを降りてロビーから歩いていくと、ぼんやりと目に優しい橙色の灯籠が照らす店の入り口にピンと背筋を伸ばして立っている男性の姿が見えた。
彼は高木の顔を見るなり表情を和らげ控えめに礼をする。
「高木様、お待ちしておりました」
スーツ姿のウェイターの案内の元、用意されたカウンター席につく。目の前には鉄板があった。
少し離れたところから肉の焼ける音と芳ばしい香りがして、食欲を刺激されたうららのお腹はキュルキュルと情けない音を発した。
「ハルカちゃん、肉好きだったよね? 僕が適当に頼んじゃっても大丈夫かな?」
「はい、大好きです。お願いします」
うららの言葉に軽く頷いた高木はカウンターを挟んで立っているシェフに注文を始める。うららはそのようすをジッと眺めていた。
彼についてうららが知っている事は『高木』という苗字と年齢(50代らしい)、そしてとある有名企業の重役だという事だった。
高木は『パパ』の中では極めて珍しく、自分語りやマウント、男尊女卑思考でパパ活する女の子を見下す発言も無い善良なパパだった。自分の事は多く語らず、寧ろ彼は親身にうららの話を聴いてくれる。
————というのも、早くに奥さんと娘と別離し、若い女の子たちに娘の面影を重ねているんだとか。
「⋯⋯ところで、何かあったの? ハルカちゃん」
注文を終えた高木がおもむろに口を開いた。
「⋯⋯え?」
「元気が無いように見えたから」
どうやら、高木には全てお見通しのようだ。
うららは観念して、最近身の回りで起こったうららの頭を悩ませる出来事のあらましを話す事にした。
✳︎✳︎✳︎
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ、久しぶりにハルカちゃんと話せて楽しかったよ。⋯⋯でも、済まないね。折角君が勇気を出して相談してくれたというのに僕では何の力にもなれなかった」
「そんな事⋯⋯! 聴いていただけただけでも気持ちが楽になりました。それに、私も高木さんとお話出来て楽しかったです」
「ははっ! それなら良かった。また時間が出来たら連絡貰えると嬉しいな」
「はい、ぜひ。⋯⋯それじゃあ、また」
食事を終えたうららと高木はホテルの最寄駅前まで来ていた。別れの挨拶とお礼を済ませ、タクシー乗り場の方向に歩き出す高木の背中を見送る。
夜風に当たりたい気分だった為、タクシー代を出すという高木の申し出は断った。うららはひとつ息を吐き出して歩き出す。
(本当に気持ちがちょっとだけ軽くなった気がする。でも、なんだか疲れた⋯⋯)
確かに疲労感は感じているもののまだ帰りたくないと、ふらふらと当てもなく駅に程近いアーケード商店街を彷徨う。
通りを行き交う人々。すれ違う、仕事帰りに一杯引っ掛けたであろうほろ酔い状態のサラリーマンの群れや女子会帰りの大学生たち。
その中に見覚えのある後ろ姿を発見する。
「至、センセー⋯⋯?」
うららの視線の先にはよれよれのスーツ姿で困ったように笑う至の姿。
そして、その隣にはうららの中で今最も目にしたく無い女No. 1の座に輝いた夏川陽葵の姿があった。
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