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うららの誤算と、呉羽の斬新な脅迫。





「お、おはよぉ~⋯⋯」


 うららはよろよろと覚束ない足取りで力なく教室の扉を開く。


「おはよ、うらら。⋯⋯あれ、珍しいじゃん」


 そう言った百香は目を丸くしてうららの背後を凝視した。それもその筈で、今日は呉羽と共に登校してきたからだ。

 普段の呉羽は、バスケットボール部の朝練がある為に早朝に登校している。

 見た目は派手なものの根が真面目な呉羽は、朝練が無い日も大分余裕を持って登校しており、ギリギリを攻めるうららと登校時に遭遇する事は殆ど無かった。



「おはよ、海堂。⋯⋯たまには幼なじみ水入らずで登校しようと思ってな」


 悪びれもなく笑顔でそうのたまう呉羽に、うららはワナワナと拳を震わせ、噛み付かんばかりの勢いで食ってかかる。


「⋯⋯っ! 勝手に着いて来たクセにどの口がっ⋯⋯!!」





✳︎✳︎✳︎





 ————結論から言えば、吹っ切れた呉羽は強かった。


 うららは一晩じっくりと考えた結果、例の話題に触れられないようにする為、徹底的に呉羽を避けようという結論に至った。呉羽には申し訳ないが、これも平穏な学生生活を守る為だ。


 しかし、うららの浅はかな考えはお見通しだというように、常春家の玄関の壁に寄りかかり待ち伏せする呉羽。

 うららが扉を開けたのに気が付くと、スマートフォンから顔を上げ、『おはよ、うらら』とまるで最初から待ち合わせでもしていたかのように満面の笑みで話しかけて来た。

 うららは状況を飲み込めず、震える唇を開く。


『な、何でウチにいんの⋯⋯?』

『何でって⋯⋯うららと一緒に学校、行こうと思って』

『そんな急に言われても⋯⋯』

『だってうらら、俺と気不味いからって避けようとするだろ?』

『ゔ⋯⋯っ! な、何故それを⋯⋯⋯⋯!?』


 図星を突かれたうららは思わず後退った。


『分かるよ。何年うららを見てたと思ってるんだよ』

『な、なんで⋯⋯』

『何でって⋯⋯うららはここで聞きたいって事?』

『やっ⋯⋯いい、いいからっ!!』


 呉羽の言わんとする事を察したうららは、慌てて悪戯っぽい笑みを浮かべる彼の口を押さえる。


(あ、危なかった⋯⋯!!)


 朝から何故かどっと疲れたうららは、既に一仕事終えた気分だった。額にじわりとかいた冷や汗をブレザーの袖で拭う。



『もうっ! これ以上呉羽と喋ってたら遅刻しちゃうんだけどっ』

『分かってるよ。じゃあ、行こう』


 呉羽はそう言って、うららの手を取って歩き出した。


『ち、ちょっと⋯⋯呉羽!?』

『何?』

『手、離してよっ!!』


 呉羽の気持ちに気付いてからというものの、必要以上に意識してしまううらら。

 その事に気付いた呉羽は、上機嫌なようすで更に握った手に力を込める。その手は幼い頃繋いだ時よりも遥かに大きく骨張った男性のもので、うららの心臓は大きく跳ねた。


『あたし、手汗凄いからっ! もう、びっちょびちょだから⋯⋯っ!』

『気にしないよ、そんなの』

『あっ、あたしは気にするのっ!!』


 うららの抵抗虚しく、そのまま学校に到着するまで握られた手。無理矢理に引き剥がそうとすると、呉羽は暗に『告るぞ』という斬新な脅迫をして来る。

 ————まさに、告白する側(未遂)とされる側の力関係が逆転した瞬間だった。


『明日も朝、迎えに行くから』

『ムリ。やだ、断る』

『あ⋯⋯俺、うららに聞いて欲しい大事な話があるんだった』

『〜〜〜〜っ!!』


 笑顔で脅しをかける呉羽。

 開き直った彼を前に、うららはなすがままになる他ないのだった。









貴重なお時間をいただきありがとうございました!

ここまで読んでいただけて嬉しいです!

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