清楚とは哲学。————そして、ゲシュタルト崩壊。
呉羽発案の作戦————『押してダメなら引いてみろ!』大作戦は案の定失敗に終わったのだった。
そして、うららはただいま失意のどん底の真っ最中である。
取り敢えず朝から登校してはいるものの、席に着くなり机の上に突っ伏して項垂れていた。
「ゔゔゔ~~~~⋯⋯」
「どしたどした。⋯⋯あれ? あのダッサい格好辞めたんだ」
珍しく遅刻ギリギリで登校して来た百香が席に着くなり声をかけてきた。うららはその言葉にピクリと肩を揺らし、瞳だけを百香に向けてじとりと抗議の視線で彼女を見やる。
「ダサくないし⋯⋯。あれがあたしなりの清楚な格好だし⋯⋯⋯⋯」
すっかり元の格好に戻ったうららは遠い目をしながら反論した。
「うららアンタ⋯⋯清楚を履き違えてるし、黒髪にすれば清楚になれるんならこの世の中は清楚女で溢れかえってるわ」
「ゔ~~! じゃあどうすれば良いのさ~⋯⋯⋯⋯」
「————美は1日にしてならず。⋯⋯つまり、清楚になるのも一朝一夕じゃダメってこと。普段から努力しないと」
「っ⋯⋯! ももちぃだってギャルギャルしい格好じゃん!? それなのに、ももちぃに清楚の何が分かるっていうのさ!!」
虫の居所が悪いうららは噛み付かんばかりの勢いで声を荒げる。
しかし、そんなうららにも臆する事無く、百香はうららの額をコツンと軽く小突きながら言った。
「ウチは好きでこの格好してるからいーの。ってか、清楚って見た目だけじゃ無いと思うけど。⋯⋯なんて言うか、内面から滲み出る可憐さや儚さが相まって清楚さに繋がる、みたいな? よく分からんけど」
「な、なんかそれっぽい⋯⋯さすがももちぃ、頭良いだけあるよね! う~ん⋯⋯じゃあ思い切って地毛に戻そうかなあ?」
うららは数日ぶりのピンク髪をグラデーションのジェルネイルが施された指先で弄りながら呟く。先ほどまでのムカムカはいつの間にか消えていた。
「ウチが言いたいのはそういう事じゃ無いんだけど⋯⋯。まあ、良いんじゃない? 茶髪も似合ってると思うよ」
「戻すのもありよりのありかぁ~。⋯⋯ん? 待てよ? 戻すのには一個だけ大きな問題がある、かもしれない⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯どした?」
「あたしまで茶髪にしちゃったら————」
うららはむくりと机から顔を上げて起き上がり、如何にも深刻そうな表情を作ってから口を開いた。
「————ももちぃとキャラ被りしちゃわない?」
「(笑)」
百香は鼻を鳴らして笑い、うららを嘲るように一瞥する。
「ちょっと、ももちぃ! それどういう意味の笑い!?」
「ご想像にお任せします」
「こっ、怖ぁっ!! もう、いいよ⋯⋯どーせあたしなんかバカでグズでノロマで、好きな人へのアピールも碌にできないダメ人間だもん。オマケにピンク髪だし⋯⋯」
その時、タイミング悪くショートホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴る。
言葉を続けようと口を開いたうららだったが、少し迷ってから口を閉じ大きく息を吐いた後、再び力無く机に突っ伏すのだった。
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