恋の心得其の二、押してダメなら引いてみろ!③
楽しい昼休みはチャイムと共に終わりを告げ、5時限目————いよいよ古典の授業が始まる。
うららの心臓ははち切れんばかりにバクンバクンと激しく脈打っていた。
(うう~⋯⋯っ! センセーどんな反応するかな? ⋯⋯ってか、あたしに気付いてくれるよね!?)
うららは俯き、太ももの上に置いた拳をギュウッと強く握り締める。ジワリと手のひらに大量の汗をかいている事に気付き、こっそりと長い制服のスカートで拭った。
(来たっ⋯⋯!!)
黒板の右上の壁掛け時計を確認すると、時刻はちょうど13時30分————時間ぴったりに教室前方の扉が開く。
床をたたく革靴の踵の音が聞こえたかと思えば、いつも通りの草臥れたグレーのセーターに黒いスラックス姿の至が現れた。
待ち焦がれた想い人の登場に、うららはごくりと唾を呑む。
「⋯⋯欠席者は居ないようですね。それでは授業を始めます」
至は教壇に立ち、そう言って生徒たちの顔をぐるりと見回した。
「!!」
一瞬、ぱちりと目が合った気がした。うららは思わず背筋をピンと伸ばす。
しかし、至はうららを一瞥しただけで、ピクリとも表情を動かす事は無かった。
「~~~~っ!!」
(なっ、何で無表情なの!? ちょっとは驚いてくれたって良いじゃん⋯⋯。もう、至センセーが何考えてるか全然分かんないよ⋯⋯⋯⋯)
余りにも自分に関心が無い事をまざまざと思い知らされたうららの目頭は熱くなり、鼻の奥がツンと痛くなった。
うららはその事を至に気付かれないようにと、机に突っ伏す。パサリと顔にかかる黒髪からカラーワックスの人工的な甘い香りが漂ってきて、何故だか無性に悲しくなった。
(やっぱり、至センセーにとって、うららは一生徒に過ぎないんだよね⋯⋯でもまぁ、うららに興味無い事はとっくに分かってた事だけどねっ!?)
それから1日が経ち、2日⋯⋯3日と無情にも時は過ぎて行く————。
その間、一向に至からのアクションは無かった。つまり、今日まで授業以外で至と会話する事はおろか、顔を見る事さえ無いという事で————。
その事に大きなショックを受けたうららは、この作戦の提案者である呉羽に詰め寄る。
「そもそも、分かってて言わないようにしてたんだけど、まだ至センセーはあたしのこと好きじゃないんだって! それなのに、あたしまで引いちゃったらもうなんも始まんないじゃん⋯⋯!! 呉羽のバカっ!!」
涙目で呉羽の胸板を叩くうらら。そんなうららを呉羽は困ったような笑顔で宥めるのだった。
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