恋の心得其の二、押してダメなら引いてみろ!②
家庭科の授業が終わり生徒たちが待ちに待った昼休み————。
いつもならばこの時間が待ち遠しくて仕方の無いうららであったが、今日はチャイムの音を聞くなり深くため息を吐いた。
「あれ? 今日は準備室行かないの?」
授業が終わっても未だに机に頬杖を付いてぼんやりと虚空を見つめるうららを見た百香は、不思議そうな顔をして言った。
「行かないよ⋯⋯。そーいう作戦中だもん」
「⋯⋯作戦?」
「呉羽曰く、今までのあたしはガツガツし過ぎだったんだって。でもって、そんなあたしがいきなり大人しくなったら至センセーはどう思う?」
「⋯⋯⋯⋯」
「うんうん、そう! 『いつもは僕を追いかけて来る常春さんが隣に居ないのはなんだか物足りない⋯⋯この気持ちはもしかして————恋!?』ってなるんだよ!」
「⋯⋯⋯⋯」
うららは似ても似つかない至の声真似をする。百香はというと、相変わらず一言も言葉を発する事なくうららの話を聞いていた。
「————その名も“押してダメなら引いてみろ”作戦!!」
うららはたっぷりと間を取り、勿体ぶるように言った。
「⋯⋯⋯⋯」
「ちょっと! なんでさっきから無言なのさ、ももちぃっ!」
「⋯⋯⋯⋯呆れ返ってんだわ」
事の次第を聴いた百香はちらりと横目でクラスメイトと談笑する呉羽を見やる。何処となく、いつもよりも上機嫌に見える呉羽は百香の視線に気付く事は無かった。
「ももちぃ、どこ見てんの?」
「⋯⋯何でもない。ま、偶には良いんじゃん? 女同士水入らずお昼食べるのも」
「そだね」
うららと百香は互いの机を向かい合わせにして、それぞれ持参した昼食を広げた。うららはお手製の弁当、百香は通学途中にあるコンビニエンスストアで買った惣菜パンと野菜スティック。
「今日はオムライスなんだ?」
百香はうららの弁当を見て言った。その中身はいつものバランスと彩りを考えたものでは無く、チキンライスと薄焼き卵の上にケチャップをかけた極々簡単なものであった。
「うん。なんかやる気出なくて」
「十分美味しそうだけど。ウチは面倒でいつもコンビニで済ませてるし」
「一口食べる? はい、あーん」
うららは食べかけのオムライスをスプーンで一口掬って百香の口元に運んだ。それをパクリと百香が食べる。
「⋯⋯~~うまっ! 相変わらず、うららは料理上手だね。何ならウチが嫁に貰いたいくらいだわ」
「あたしがももちぃに嫁ぐの!? う〜ん⋯⋯至センセーに振られたらお願いしよっかな。⋯⋯⋯⋯あっ! 嫁ぐといえば、ももちぃ。最近彼氏とはどうなの?」
最近百香がとんと彼氏の話をしなくなった事を思い出したうららは尋ねた。すると、気まずそうに視線を逸らしながら答える百香。
「あ~~⋯⋯別れた⋯⋯⋯⋯」
「えっ!? またぁ!?」
「『また』とは失礼な。今回は1か月続いたし」
「それ十分短いって。⋯⋯勿体ないなぁ、ももちぃ。真実の愛って良いものだよ?」
「最近知ったアンタが言うな」
「恋や愛に時間なんて関係無いしっ! 大事なのは深さだよ!!」
「⋯⋯はいはい」
百香と話しているうちに、あっという間に時は過ぎていく。
昼休みが終われば、次はいよいよ古典————至の授業だ。
うららは彼に会える喜びと緊張から胸を高鳴らせた。
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