恋の心得其の二、押してダメなら引いてみろ!①
うららの突然のイメチェンに驚いたのは、なにもクラスメイトだけでは無い。授業に来た教師までもが目を見張った。
中でも取り分け好感触だったのは、数学の斉藤先生である。常日頃からうららを目の敵にしている彼は、初めはうららの格好に驚くようすを見せはしたものの、それからはいつものしかめっ面が嘘のようにニコニコと上機嫌に授業を進めたのだった。
一限目から日本史、英語、数学⋯⋯とこなし、既に疲労困憊気味のうららは授業と授業の合間の10分休憩中に机に頬杖をついてうつらうつらと船を漕いでいた。
見た目は大きく変わったものの、いきなり中身まで変える事など到底出来る筈も無く、開いたままのうららの数学のノートには眠たいながらも板書をしようとした努力の証————シャープペンシルで書かれた謎の直接が幾つも生成されていた。
「うらら、起きて」
「うーん⋯⋯⋯⋯」
4時限目が始まる1分前、百香がうららの肩を揺さぶる。うららはぼんやりとする頭をどうにか叩き起こし、百香にお礼を言ってから昼休み前最後の授業である家庭科の教科書とノートを机の引き出しから取り出す。
授業開始のベルと共に前方の扉を静かに開き、教室に入って来たのは家庭科担当の小鳥遊先生。彼女も例に漏れず、教室内を見回してうららの姿を認識するなりギョッと目を見張った。
「やっぱりみんな驚くよね」
「⋯⋯うん。この格好、そんなに可笑しい?」
「なんて言うか、ある意味個性的な格好だとは思う。一昔⋯⋯いや、二昔前くらいの芋女みたいな」
「芋⋯⋯⋯⋯」
うららは百香の言葉に顎に手を当てて考え込む仕草をする。
「⋯⋯でもさ、前のあたしの格好よりは今の方が至センセーと並んでも違和感なくない?」
「ある意味お似合いかもね。⋯⋯てかアンタ、仮にも好きな人を芋男呼ばわりは草」
「ちがっ⋯⋯! あたしは少しでも至センセーに近付きたくて⋯⋯っ!!」
「常春さん、授業中はお静かに!」
思わずうららが声を荒げると、すかさず小鳥遊の咎める声が飛んでくる。
うららは咄嗟に口を押さえて小声で百香に言った。
「やばっ⋯⋯あたし、真面目に生きる事にしたんだった」
「真面目、ねぇ⋯⋯。無理してセンセーと上手くいっても、後々うららが辛くなるだけだと思うけど」
「それでも良いよ。⋯⋯あたしは至センセーに振り向いて貰えるなら、自分を殺したって良いんだもん」
「⋯⋯⋯⋯」
うららは百香の尤もな意見にそれだけ返して、次こそは授業に集中するために前を向く。
そんなうららの横顔を、百香は憂色を帯びた顔で見つめていた。
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