逆高校デビュー
「おはよ、ももちぃ⋯⋯」
うららはいつもより幾分か暗い表情と沈んだ声音で教室の扉を開ける。
うららが朝の賑わう教室に足を踏み入れた瞬間、室内が水を打ったようにしんと静まり返った。
「うわっ!? だ、誰!? ⋯⋯ってうらら!?!?」
「⋯⋯誰って酷いなぁ、ももちぃ」
「いや⋯⋯だって、その格好————」
百香はガタンと音を立てて椅子から立ち上がる。こぼれ落ちそうな程に目をまん丸に見開いた百香の視線は、うららの頭の天辺からつま先までを幾度となく往復していた。
それもその筈で、本日のうららの格好は普段とは打って変わり、うららのトレードマークとも言える大きなリボンを外し固く三つ編みをした黒髪に膝が隠れる丈のスカート、足元には学校指定の紺色ソックス。
メイクもナチュラルに抑えて、分厚い伊達眼鏡をかけ、スクールバッグには授業で使う教科書がぎっちりと詰まっている。
「え? 何か可笑しい?」
「可笑しいも何も⋯⋯! 一瞬誰か分からんかったわっ! え、マジで何なの⋯⋯喪中的な?」
「違うけど? あたしはいつもこんな感じじゃん?」
「~~~~っ!!」
真顔で言ってのけるうららに、百香は次の言葉が出てこないようであった。
そんな百香に助け舟を出したのは、うららよりも少し遅れて教室に入って来た呉羽だった。
「うららは愛しの冬木センセーに振り向いて貰う為に頑張るらしい」
「秋月⋯⋯!」
「ん、おはよ。海堂」
「だからって⋯⋯! こんないきなりは心臓に悪いわっ!!」
「ははは」
「⋯⋯秋月、アンタ⋯⋯。もしかしてだけど、うららの事邪魔するつもりじゃないでしょうね?」
「⋯⋯海堂は深読みしすぎだよ。俺がうららの悲しむ事をする筈無いだろ?」
「⋯⋯⋯⋯」
にこりと笑う呉羽の瞳はどこか冷たい光を帯びて戸惑う百香を見つめていた。
✳︎✳︎✳︎
百香は呉羽が席に着いたタイミングを見計らって、隣に座るうららに声をかける。
「うらら⋯⋯言いたかないけど、アンタの唯一で最大の長所が消えてるよ⋯⋯そのダサい格好⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯え? だって男の人って黒髪で清楚な女の子が好きなんでしょ?」
「それは清楚じゃなくて、地味⋯⋯。いや、うん⋯⋯アンタが納得してるならもう何も言わないけどさぁ⋯⋯」
「昨日、呉羽が色々とアドバイスしてくれたんだ。優しいよね。やっぱり持つべきものは親友と幼なじみだわ!」
「うん⋯⋯ウチにはもう、手に負えないわ。一つだけ言えるのは、アンタの幼なじみはヤバいって事だけ⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯?」
そう言って頭を抱える百香を前に、イマイチ状況を飲み込めていないうららは首を傾げるのであった。
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