呉羽の想い②
「っとりあえず、その事は置いといて⋯⋯! あたしは呉羽に相談に来たのっ!」
「相談⋯⋯?」
「⋯⋯うん。実はあたしと至センセーの恋を邪魔する手強いライバルが現れたの! それで、男の人の意見も聞きたいと思って」
「俺の意見なんて参考にならないと思うけど」
「なるなるっ! それに、仲良い男子なんて呉羽くらいだもん」
「な、仲良い⋯⋯俺、だけ⋯⋯⋯⋯」
呉羽はうららの言葉を繰り返したかと思えば、サッと腕を上げて手で口元を覆ってしまう。
「だからさぁ~お願いっ! 幼なじみの好みであたしを助けると思って!」
「⋯⋯⋯⋯」
うららは顔の前でパンっと両手を合わせる。
そんなうららを前にして暫しの間、考え込んでいた呉羽だったが大きく息を吐き出した後、漸く口を開いた。
「いいけど⋯⋯あんまり期待するなよ?」
「うんうんっ! 呉羽が居ればヒャクニンリキだよ~!!」
うららは協力者を得た喜びから勢いよく呉羽に飛びつく。
「うわっ⋯⋯!! なっ⋯⋯ななななにを!?」
ボフンと音を立てて爆発してしまいそうな程に真っ赤になる呉羽。
「⋯⋯あ、ごめんごめん。ついももちぃと居る時のクセで」
「いっ、いいから取り敢えず離れてくれ!」
呉羽は耳までも赤く染め、密着するうららの肩を掴んで少々強引な仕草で引き離した。
(呉羽って見た目チャラいのに、相変わらず初心なんだよね⋯⋯でも、それならさっきのは何だったんだろ?)
呉羽の大袈裟なまでの反応を微笑ましげに眺めた後、うららは先程のベッドでの出来事を思い返して首を傾げる。
(まぁ、良いか。呉羽が呉羽じゃないみたいであんまり思い出したく無いし⋯⋯⋯⋯)
真剣な呉羽の表情を思い出すと何となくむずむずと落ち着かない心地になるうららは、あの時の出来事は忘れようと心の中で決意した。
✳︎✳︎✳︎
「だ~か~らぁ! 先生と生徒なんて恋の前じゃ関係ないのっ! これは女と女の戦いなんだよ!!」
恋敵が夏川陽葵である事を話したうららは、イマイチ危機的状況である事を理解していない呉羽に必死に説明していた。
「きっと、あたしの知らないところで2人きりになったりしてるんだよ⋯⋯もしかしたら、2人だけで飲みに行ったりとか! 夏川には、あたしが出来ない事をたかが幾つか歳上ってだけでいとも簡単に出来ちゃうんだよ!?」
うららは昼休みの敗北を思い出して涙ぐむ。あの時の光景を思い返すだけで胸が締め付けられ、鼻の奥がツンと痛んだ。
「あたしももっと早く生まれたかった、もっと早く出会いたかったよ⋯⋯⋯⋯」
「うらら⋯⋯」
スンスンと鼻を鳴らすうららを見た呉羽は表情を曇らせる。
「ごめん⋯⋯こんなんじゃ、センセーに振り向いて貰えないよね。⋯⋯そうだ! 参考までに、呉羽はどんな女の子が好きなの?」
「は、はぁ!?」
またもや顔を赤らめて狼狽える呉羽。
己の瞳と同じくらいに真っ赤に染まった頬を眺めるうららは、期待通りの初々しい反応をする呉羽を前に悪戯心が芽生えニヤニヤと笑いながら口を開いた。
「いいじゃん、教えてよ」
「だ、駄目だっ! うららにだけは絶対教えない!!」
「え~⋯⋯呉羽のケチ」
頬を膨らませるうららは不意に「あっ!」と声を上げる。
大好物の恋バナを前に目をキラキラと輝かせるうららは先程、好みのタイプを聞いて断られた事などすっかり忘れていた。
「じゃあさじゃあさ~! 呉羽は気になる人とかいないの? お礼にあたしも相談乗るよ! なんなら協力もするしっ」
「⋯⋯⋯⋯」
良かれと思って(半分は呉羽と恋バナをしたかっただけである)そう言ったうららだったが、予想に反して呉羽は難しい顔で黙り込んでしまう。
「く、呉羽⋯⋯?」
「俺の方が昔から⋯⋯⋯⋯っ!!」
「?」
言いかけて口をつぐんでしまった呉羽の顔を、うららはその続きを促すようにジッと見つめる。
しかし、どんなに待ってみてもその言葉の先を聞く事は叶わなかった。
「⋯⋯何でもない」
素っ気なくそう言った呉羽はフイッと目を背けた。
「なんか⋯⋯呉羽怒ってない?」
「怒ってないけど?」
口では否定しながらも、うららの反応にどこかムッとしたようすをみせた呉羽はとある提案をする。
「これまで積極的にアタックしてきても成果無しだったんだろ? それなら、ここは思い切って一度引いてみれば良い。題して、押してダメなら引いてみろ作戦だ————」
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