呉羽の想い①
「う、うらら⋯⋯実は、俺————」
「⋯⋯⋯⋯?」
うららが追想にふけっていると、真剣な顔をした呉羽が口を開いた。
「————す、す⋯⋯すすす」
「⋯⋯すすす? 何なの?」
真面目な話かと思いきや、真っ赤な顔をして『す』以外の言語を失ってしまった呉羽。一向に進まない話に痺れを切らしたうららは続きを催促する。
その間にも熱に浮かされた瞳で見つめられ、居た堪れない心地になったうららはふいっとあからさまに呉羽から視線を逸らした。
「す、す————⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯いや、何でもない⋯⋯⋯⋯」
赤くなったかと思えば途端にさあっと青ざめた呉羽はガックリと肩を落としてそう言った。
「なんか今日の呉羽可笑しくない?」
「⋯⋯⋯⋯うららには言われたくない」
「はぁ!? あたしが可笑しかった事なんて一度も無いんだけどっ」
「はいはい⋯⋯」
幾分かいつもの調子を取り戻した呉羽は、ベッドから降りて絨毯が敷かれた床へと腰掛ける。うららもむくりと起き上がり、漸く呉羽が離れた事に密かに息を吐いた。
「⋯⋯⋯⋯それで? うららが好きな奴って誰?」
「え~♡⋯⋯聞きたい?」
「⋯⋯聞いて欲しいんだろ?」
「それはそうだけどっ! 心の準備ってのがあるじゃん?」
そう言いながらもここに来た本来の目的を果たす為、うららは深呼吸をしてから口を開く。
「あたしが好きなのは————」
「⋯⋯⋯⋯」
静まり返った部屋に、ごくりと呉羽が唾を呑む音が響いた。
「冬木⋯⋯至センセー、だよ⋯⋯」
「っ!!」
至の名を耳にした瞬間、呉羽は大きく目を見開いた。
百香の事もあり、ある程度予想はしていた事だが想い人を打ち明けた途端にフリーズしピクリとも動かなくなった呉羽をじとりと見やる。
「驚きすぎ。⋯⋯そんなに可笑しい?」
「⋯⋯いや、まあ⋯⋯確かに驚きはしたけど⋯⋯何で冬木なんだ?」
「それは至センセーが————」
言いかけて、うららはハッと口を噤んだ。
(そう言えば、パパ活の事は呉羽にも言ってないんだった⋯⋯!)
「えーっと⋯⋯偶然? いや、運命的な!? 兎に角、出会った瞬間にビビッときたのっ!!」
「それじゃ、入学した時から好きだったって事か?」
「いや⋯⋯好きになったのは最近⋯⋯⋯⋯」
呉羽は不思議そうに首を傾げる。
「冬木って1年の時から居なかったか?」
「う、うーん⋯⋯至センセーの存在を認識したのは最近だから⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
運命だと大見えを切ったものの、尤もな事を指摘されたうららは気まずそうに答える。
ダラダラと冷や汗をかくうららを呆れ顔で見つめる呉羽の視線が痛かった。
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