気に入らない女②
「⋯⋯常春さん、伝えるのが遅くなってしまってすみません。もしかして、今日もお弁当を持って来てくれたんですか?」
うららと夏川との板挟み状態になった至は困ったような顔でそう言った。普段表情を顔に出さない至であったが、下がった口元から現在の状況に困惑している事が痛いほどに伝わってくる。
至と少しでも一緒に過ごしたいうららであったが、決して困らせたい訳ではないため持っていた2人分の弁当箱を咄嗟に後ろに隠した。
「っ⋯⋯ううん! 今日は寝坊しちゃって作れなかったのっ⋯⋯だから、ちょうど良かった!!」
「そうでしたか。⋯⋯それなら良かった」
うららの言葉を聞いた至は途端にホッとした表情になる。
「⋯⋯もしかして、それを言う為にわざわざ追いかけてまで伝えに来てくれたんですか? ありがとうございます」
「⋯⋯ううん、いいの」
(本当は一緒に準備室まで行こうと思ってたんだけどな⋯⋯)
うららはギュッと後ろ手に持った巾着袋を握り締める。
「じゃあ、常春さんには申し訳ないけれど冬木先生はお借りするわね。⋯⋯先生同士、二人っきりでの大切なお話がありますから」
「⋯⋯⋯⋯」
やけに二人っきりを強調する夏川は、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
「冬木先生、行きましょう」
「ああ、はい。⋯⋯それじゃあ、常春さん。僕はこれで失礼します。また授業で分からない事があれば気軽に聞きに来てくださいね」
「⋯⋯⋯⋯うん」
うららは小さくなっていく二人の後ろ姿を無言で見送る。
恨みのこもった視線で夏川の白い背中を凝視していると、それに気付いたのか数メートルほど歩いたところで不意に彼女が立ち止まった。
そして、長い髪を靡かせながらくるり振り返り、口角を上げて意味深な笑みを浮かべてうららを見てくる。ギラリと光る緑の瞳が「私の勝ちね」と言っているようだった。
(は、はぁ!? 何なのアイツ!! これってまさか⋯⋯センセンフコクってやつ!?)
怒りが頂点に達したうららの顔は強張り、口角はヒクヒクと痙攣を繰り返す。
「はーン??? あンの、BBAめっ!! うららの本気を舐めんなよ!?」
そう言いながら既に前を向いて歩く夏川に向かって中指を立てる。
人生で初めて完膚なきまでの敗北を喫したうららは逆襲を誓い、ネイルを施した長い爪が食い込むほどにギリリと音を立てて拳を強く握り締めるのだった。
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