気に入らない女①
「約束の時間が過ぎているのに、いつまで経っても冬木先生がいらっしゃらないから⋯⋯私、迎えに来ちゃいました」
そう言って、コテンと首を傾けてにっこりと微笑む夏川と呼ばれた女性。
ヒールを履いているにも関わらず、うららよりも大分小さい彼女は上目遣いで至を見やる。
(は、はあ⋯⋯ !? 約束ゥ!? 何この女っ!!)
「ね、ねえ⋯⋯至センセー、この人————」
突然現れた至に対して妙に親しげな雰囲気の夏川の存在に、不安に駆られたうららは至のセーターの裾を掴んで彼の顔を見つめる。夏川ほどの身長差は無くとも、自分にだって上目遣いくらい出来るのだと無意識に女性らしさを体現している夏川と張り合ってしまううらら。
しかし、そんなうららの声を遮るようにして夏川は至に声をかけた。
「冬木先生、早く行かないとお昼休みが終わってしまいます。⋯⋯私、先輩に相談したい事があるって言ったじゃないですか」
「⋯⋯夏川先生、ここでは先生と呼ぶように」
「あ、そうでした。ここでは先生と呼ぶ決まりなんですもんね。私、まだ慣れなくて⋯⋯⋯⋯」
至にピシャリと厳しい注意を受けた夏川は、「ごめんなさい⋯⋯」とはにかみ悪びれのないようすで話を続けた。
うららが至との時間を邪魔する夏川に唇をキツく結んでガンを飛ばして居ると、不意にぱっちりと開いた緑の瞳と視線がぶつかる。
「あら⋯⋯? 冬木先生、その子は?」
まるでうららの存在に今しがた気が付いた風を装う夏川に、フツフツと腹の底からどす黒い怒りが込み上げる。
そして、そう言ったかと思えば値踏みするかのようにスッと目を細めてうららの頭の天辺からつま先までを仄暗い緑の瞳で見る夏川。うららはそんな彼女の態度にぞくりと肌が粟立った。
(さっきから黙ってれば調子に乗りやがって⋯⋯! それに、先輩って⋯⋯何なのコイツっ!! うららと至センセーの時間を邪魔するなんて絶対許さない! てか、お前こそ誰だよっ!?)
「彼女は僕が授業を受け持っているクラスの生徒の常春うららさんです。昼休みにまで僕のところに来て勉強するとても真面目な生徒なんですよ」
「⋯⋯そうなんですね。常春さん、ごめんなさいね。今日の冬木先生は私との先約があるから遠慮していただけるかしら? 先生同士の大切なお話をしなければならないの」
「⋯⋯⋯⋯」
うららは答えなかった。
至から褒められて嬉しい気持ちと、夏川から受けたマウントとも取れる発言への腹立たしい気持ちがうららの中でぐちゃぐちゃとないまぜになっており、どうして良いか分からずにただ口を結ぶだけであった。
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