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伝わらない想い②





「いただきます」

「はい、どーぞっ!」


 うららが見守る中、箸を持った至は迷わず初めてにして本日のメニューの中で一番の傑作である出汁巻き卵を掴んだ。


(やっぱり好きなんだ! 出汁巻き卵作って良かったぁ!!)


 うららが幸運を噛み締めていると、至は出汁巻き卵一切れをぱくりと一口で口に収めた。

 もぐもぐと静かに咀嚼そしゃくし、噛むたびにじゅわりと出汁が染み出る出汁巻き卵を薄灰色の瞳を僅かに輝かせてゆっくりと味わう至。


(センセーって、好きなものを食べる時って大きな口開けてリスみたいに頬張るんだ⋯⋯分かりやすくてかっわいい⋯⋯⋯⋯)



 ぷくりと膨れる頬で出汁巻き卵を咀嚼する至のようすにぼうっと見惚れるうららは、不意に百香から聞いた話を思い出した。 


(そういえば、ももちぃいわく至センセーは生徒にあんまり人気無いらしいけど⋯⋯本当のところはどうなんだろう? あたしの他にもセンセーを狙ってる子って居るのかな⋯⋯)




「ねえ、センセー。ちょっと聞いても良い?」


 至が出汁巻き卵を飲み込んだタイミングを見計らって、うららは彼に声を掛ける。


「⋯⋯はい。何か授業で分からないところがありましたか?」

「まあ⋯⋯それはいつもの事なんだけど⋯⋯って、今はそうじゃなくて!!」

「⋯⋯⋯⋯?」


 途端に真剣な表情になったうららに、首を傾げる至は並々ならぬ雰囲気を感じ取ったのかそっと箸を置いた。


「あ、あのさ⋯⋯⋯⋯あたしの他にもセンセーに会いにくる子って居たりする?」


(さり気なくライバルの存在に探りを入れる作戦!)



 至はうららの質問内容に一瞬拍子抜けしたようすを見せながらも口を開いた。


「ええ⋯⋯偶に授業の不明点を尋ねに来る生徒は居ますが、常春さんのように毎日準備室まで勉強しに来るようなやる気に溢れる生徒は居ませんね」

「そ、そうなんだ!? あたしが、一番なんだ⋯⋯」


 理由はどうであれ、好きな人の一番という事にニヤけそうになるうららは必死に口内を噛んで平然を装う。

 現状ライバルが居ない事にホッと胸を撫で下ろすうららだったが、一安心したところで新たな不安の種が生まれる。


(でも、これからもあたしと同じような子が現れないとは限らないよね⋯⋯。センセーの良いところを知ればみんな好きになっちゃうもん⋯⋯)



「至センセーこんなに優しいのに、みんな勿体ないよね」

「そんな事言ってくれるのは常春さんだけですよ」

「そっかあ~⋯⋯あっ! それなら、仕方ないからあたしが誰も来てくれなくて寂し~いセンセーに毎日会いに来てあげるね!」

「僕のことはお気になさらず。せっかくの昼休みなんですから、友達と食べるのも良いと思いますよ」

「⋯⋯⋯⋯」


 強引に明日以降の約束も取り付けるうららであったが、至には完全にスルーされてしまう。相変わらずの素っ気なさにうららはがくりと肩を落とした。


「それはそうと、この出汁巻き卵とても美味しいですね。実家を思い出します」

「えっ!? ほ、本当!?」


 打っても響かない至の反応に落ち込んだのも束の間、途端に元気を取り戻したうららは思わず身を乗り出す。テーブルを挟んで向かい側に座る至は面食らったようすを見せた。


「⋯⋯ええ、優しい味がします」


(これは実質的に嫁に来てくれって事では⋯⋯!? センセーってば、意外と積極的なんだからっ♡)


 恋に盲目となったうららは、自身に都合の良いようにそう拡大解釈をする。

 暴走気味の思考は留まるところを知らず、その後も至の賛辞の言葉を思い出してはにんまりと頰を緩めるうららであった。





次回から新章になります。新章では新キャラが登場する予定です。

貴重なお時間をいただきありがとうございました!

ここまで読んでいただけて嬉しいです!

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