恋の心得其の一、ターゲットの胃袋を掴むべし!②
うららは昨晩寝ずに考えた結果、勉強を教えてもらうだけでは生温い。「自らの得意分野で攻めて攻めて攻めまくり、完膚なきまでにメロメロにして落とす!」という結論に達した。
そして、その結論が出た時には既に空は明らんで朝日がすっかり顔を出しており、飛び起きたうららは丹精込めて至を落とすための手作り弁当をこしらえて来たのだった。
そのおかげで寝不足気味だが、実に有意義な時間であったとうららは満足している。
「もしかして、君の手作りですか?」
弁当のフタを開けた至はうららに尋ねた。
「うん、あたし⋯⋯勉強は苦手だけど料理は得意なんだ」
「確かに、昨日常春さんが食べていたお弁当はとても美味しそうでした。今日も、美味しそうですね」
「ほ、本当⋯⋯!?」
褒められたうららは天にも昇る心地になる。
(今日は昨日よりも気合い入れて作ってきて良かったぁっ⋯⋯! その分、手間も時間もかかったけど、センセーのその一言だけで報われるっ)
本日の昼食のメニューはチーズの入ったハンバーグにお手製タルタルソースを乗せたエビフライ、スモークサーモンとほうれん草のミニキッシュ、アクセントにブラックペッパーを効かせてカリカリのベーコンを入れたポテトサラダ、真っ赤なミニトマト、そしてデザートに甘酸っぱいイチゴ。
今日のメニューは万人受けするものかつ、うららの得意料理ばかりを作ってきた。
そして、至に渡した方は、その中でも特に見映えも味も完璧な選りすぐりのものばかりを詰め込んだものだ。
「いただきます」
至は礼儀正しく手を合わせてから箸を手に取った。じっくりとおかずを吟味してからポテトサラダを口に運ぶ。
うららはそのようすを固唾を呑んで見守っていた。
(あたしの料理はももちぃのお墨付きだもん、絶対に大丈夫なはず! ⋯⋯でも、好きな人に作るのは初めてだからやっぱり緊張する⋯⋯!)
うずうずと待ち切れなくなったうららは至に尋ねる。
「ど、どう⋯⋯? センセーの口に合う?」
「はい。とっても美味しいです」
「よ、良かったあぁ!! たくさん食べてねっ!」
至のその言葉で重くのしかかっていた不安が吹き飛び、うららは満面の笑みを見せる。想い人から手料理を褒められ有頂天のうららはニコニコと目を細め、自分の食事そっちのけで至を見つめていた。
(センセー、一口小っちゃい! かわい~⋯⋯⋯⋯)
格好良いだけじゃない至の新たな一面を発見したうららは、ニヤけそうになる口をキツく結び必死に耐える。
「⋯⋯余り見られると食べにくいのですが⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯え!? あ、ごめんっ」
「常春さんも早く食べないと昼休みが終わってしまいますよ」
照れ臭そうに視線を逸らしてポリポリと頰を掻く至を目の当たりにしたうららは、心の中でジタバタと悶える。
(照れてるセンセーもかンわいいぃッ!! もしも、至センセーとけっ⋯⋯結婚なんてしちゃったりしたら⋯⋯これが日常になるのかな? きっと、あたしの作ったご飯を毎日食べて美味しいって言ってくれるよね。⋯⋯そういえば、センセーの好物ってなんだろう? もっともっと、センセーの事知りたいな⋯⋯⋯⋯)
至との未来を想像したうららはイチゴのように赤く染まった顔で机に頬杖をつき、ハンバーグを頬張る至を見上げる。
「⋯⋯ねぇ、センセーは何が好き?」
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