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第3話 告白と告白

 ──そう、百合透花はまさしく女神だった。


 容姿端麗、スポーツ万能、心優しく、人望も厚い。その生まれも、旧華族に連なる由緒正しき財閥の一族。

 俺のような一般庶民がこうして言葉にすることすらおこがましい。


 美の女神? ヴィーナス? 

 何それ美味しいの? 

 そんなもの――いや、この世に存在するありとあらゆる美しさは、透花の前では等しく価値を失う。


 十年前のあの日。

 俺は透花と出会って、初めて〝美〟の概念を知った。それまで目にした美しさは、全てが紛い物だったのだと思い知ったのだ。


 だが、それは身分違いの恋だった。

 子供ながらに気付いていた。住む世界が違うのだと。

 でも諦めたくはなかった。諦めるなんて選択肢は端から思い浮かびすらしなかった。

 これは運命なんだと――百合透花と出逢うため、彼女を幸せにするために俺は生まれて来たのだと信じて疑わなかった。


 それからの十年は、ただひたすらに自分を研鑽するためだけに使った。

 勉学に励み、心身を鍛え、容姿を磨き、それだけに飽き足らず、芸術の分野や帝王学にまで手を広げた。

 目についた全てを片っ端から吸収し、自らを高みへ押し上げた。

 誰に反対されても、透花との仲を実力で認めさせる。

 そのための準備をしてきた。


 時とともに、ますます気高く美しく成長していく透花。そんな彼女に置いて行かれないように、死に物狂いで追いかけた。

 全ては透花のため。俺は完璧を追い求めた。


 そして、透花と出逢ってから十年目の今日。

 俺は百合透花に告白すると決めていた。 


 何人もの女子を振った後で、体裁の悪さは感じるが、ずっと前から決めていたのだから仕方ない。

 巷で完璧超人などと呼ばれる俺だって『出会って十年目で晴れて恋人同士に』とか『高校二年のスタートは透花と恋人同士で』なんて甘い妄想に浸るのだ。


 ――だから今日、俺は透花に告白する。


 □■


 大事な話があるとだけ告げて、透花の前を歩く。

 透花も何かを察したのか無言で着いて来てくれた。

 そうして辿り着いた場所は、ここで結ばれた二人は永遠の幸せを約束されるという伝説の樹。

 そんなのただの迷信だとは分かっている。

 けど、そんな不確かなものにさえすがらずにいられないほど、俺は今、人生において大事な局面を迎えていた。


 互いに手を伸ばせば届きそうな距離。

 見つめ合う俺と透花。

 舞い落ちる桜の花びらが、まるで祝福するかのように俺たちに降り注ぐ。

 透花のまっさらな黒髪が、小さな桜色に彩られながら風に揺れていた。


「――透花、今までずっと待たせてごめん。でも、やっと自信を持って透花に想いを伝えられる男になれたと思うんだ……」

「総くん、ついにこの時が来たんだね……」


 透花の瞳は涙に潤んでいた。

 ビードロのように美しく大きな瞳。それを飾る長い睫毛が儚げに震える。

 透花も不安なのだろう。胸の前で握られた透花の小さな両手に、ギュッと力がこもっているのが分かる。


「怖がらないで、大丈夫だよ透花。もう子供の頃の無力な俺とは違う。誰に何を言われようと、透花を幸せするだけの強さを手に入れたんだ。だから透花……」


 そっと彼女の手を握る。

 長いようで短かい十年だった。俺はこれまでの人生のすべてを振り返る。

 そして、積み重ねてきた時間の全てを言葉に乗せた。


「出逢った時からずっと好きだった。透花、俺と付き合って欲しい……」


 やっと言えた。この言葉を告げられる日を、どれだけ夢見たことか。


 深く呼吸を整える。

 透花の瞳を真っ直ぐに見つめる。

 静かに答えを待つ。


 手ごたえはあった。この十年で俺は透花の隣に立っても恥ずかしくない男になった。

 きっと透花も、少し恥じらいながら、でもしっかりと首を縦に振ってくれるに違いない。

 結婚式はウェディングドレスがいいかな? 最初の子供は男の子かな女の子かな? おっと、その前に大学か。同じ大学でキャンパスライフも憧れるぜ!


 人生を掛けた大仕事をやり遂げた俺の脳裏に広がるのは、そんな燦然と輝く甘い未来予想図。


 だがしかし、透花の愛らしい口から聞かされた答えは、


「――ごめんね、総くん。わたし、女の子しか好きになれないの……」 


「は、へ?」


 想定外すぎる理由で最愛の女神に呆気なく振られた俺は、その場から一歩も動けずに夜を明かしたのだった。

 ほとんどの方は初めましてだと思いますが、どうも間一夏はざまいちかです。


 今作の『TS百合に俺はなる!』は、第十五回GA文庫大賞にて三次選考落選となったTS百合ラブコメとなっております。


 まぁ端的に言うと〝男の子が女の子になって女の子とイチャイチャする話〟です。


 文章量としては、文庫本一冊程度で完結する予定です。

 続きのプロットはあるので、応援してくれる人が多いようでしたら連載を続けていきたいと考えています。


 というわけで、もし面白いと思っていただけたなら、是非とも応援よろしくお願いします。

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