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第2話 女神の誘導尋問

 甘い柑橘のような声に振り向くと、そこには幼馴染でクラスメイトでもある百合透花が立っていた。


 ──瞬間、身体の芯が熱くなる。


 呼吸をすることさえ忘れる。

 ただそこに立っているだけの透花に見惚れている。

 そんな自分を自覚するのに数秒の時間を要した。


 ――これだ。俺が舞先輩を見ても美しいと感じられなかった理由。


 透花の美しさを前にすると、それ以外の美を認識する感覚が麻痺してしまう。

 この世のありとあらゆる宝石すら、路傍の石ころに身を落とす程に美しい透花の瞳。

 その瞳にかかる、夜を梳いたような長い黒髪。

 女の子らしい豊かさと、凛とした上品さが同居した奇跡的に抜群のスタイル。


 控えめに言っても、人類史における究極にして至高の美がそこには在った。


「あ、ああ、大丈夫だよ。それより透花……ずっと見てたのか?」


 透花の美しさを前に昇天しそうな魂を引き戻して、何とか会話を続ける俺。


「はい。総くんが舞先輩を泣かしちゃうところ、しっかりと目撃してしまいました」

「泣かすって大袈裟な。先輩泣いてなかっただろ。またいつもの記念告白だって……」

「記念告白って?」

「記念受験みたいなものだよ。絶対受からないレベルの学校に記念で受験するのと同じ。卒業の思い出作りみたいなものなんだよ、俺に告白するのはさ」


 俺に振られた女子が、友達と輪になって「フラれちゃった」「謝られちゃった」「やっぱり無理だったか~」なんて、キャッキャと騒いでるシーンを何度も見たことがあった。

 泣かれるよりはマシだが、あれはあれで釈然としない気分になる。


「記念って……相変わらず総くんは口が悪いんですから。中にはそういう人もいるとは思いますけど……でも、舞先輩は違ったんじゃないかと私は思いますよ?」


 少しムッとした表情で俺を諭す透花。

 さすがに言い方が悪かったかも知れない。

 でも、透花は怒った顔も可愛いから、週二くらいで怒らせたくなるんだよな。


「それで、舞先輩で今日告白されたの何人目ですか?」


 口の悪い俺への意地悪のつもりなのか、上目使いで俺の顔を覗き込んでくる透花。

 死ぬほど可愛い。死ぬほど可愛い。死ぬほど可愛い。…………あ、死んだ。


 本人は『ちょっと可愛い仕草で懲らしめてやろう』くらいのつもりなのかも知れないが、あまりの可愛さにブラックアウトしそうになるから本気で止めてもらいたい。


「……五人目」


 俺はクラクラする頭に活を入れ、何とか平静を装って答える。


「五人とは、さすが総くん。記録更新ですね。前にSASUKE全ステージをクリアした時の四人をすでに超えてるじゃないですか……あれ? 四人に告白されたのは、全国模試で一位を取った時でしたっけ?」

「……どうだったかな、覚えてないよ」


 と誤魔化すが、本当は覚えている。


 正解は『あなたの学校のイケメン王子』とかいうふざけた企画で、不覚にも全国放送デビューしてしまった時だ。

 ……恥ずかしいからわざわざ教えないけどな。


「ところで、今日で五人ということは、この一年で総くんに告白した女の子は、二十六人になりますよね?」 

「……二十七人だよ。ってか、何でそんなこと聞くんだよ?」


 そう答えると、透花はイタズラに成功した子供のように、ふふっと笑う。


「やっぱり総くんは優しいですよね」

「何でだよ? 二十七人に告白されたとか即答する奴のどこが優しいって?」

「だからですよ。だって、口では『どうでもいい』とか言ってるのに、告白してくれた女の子のことを〝ちゃんと覚えている〟じゃないですか」

「〝ちゃんと数えてる〟の間違いだろ?」


 似ているようで、その二つの表現には天と地ほどの差がある。


「数えているだけなら、女の子を振った後、毎回あんな顔しないと思いますけど」

「あんな顔がどんな顔かは分からないけど、それはただ疲れてるだけだよ」

「まったく総くんは。本当は優しいのに、またそういうこと言うんですから」


 口を尖らせる透花。

 そんな顔(超可愛い)されたって、透花以外はどうでもいいという俺のスタンスは変わらない。


 そうだ。俺は透花以外に興味は無い。

 興味を抱く暇も必要もなかった。

 そうやって俺はこの十年を駆け抜けてきたのだから。


「――っていうか透花、誘導尋問のために、わざと人数間違えただろ」

「素直じゃない総くんが悪いんですよー」


 口元を隠して、ふふふと上品に笑う透花。

 いたずらにも女神の品格がある。怒るに怒れない。

 

 ズルいよな。

 女神って得だな、とマジで思う。

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