28.面倒くさい人② レイル
真夜中の寝室で傍迷惑にイキイキと転がるレイルを、兄のように生温かく見やりながら、侍女が準備しておいてくれたワゴンに載ったハーブティを手に、マクベスはてきぱきとした手つきで茶を淹れる。火魔法と水魔法を駆使してポットに湯を注げば、ふんわりと良い香りが部屋に広がっていく。
「しかし、主のベッドローリングも、あと数年もしたら見納めになるんですねえ……それはそれで、ちょっと寂しくなりますね」
茶を配膳しながら呟かれたマクベスの言葉に、レイルはぴたりとローリングを止めた。
そろそろと上半身を起こすと、怪訝な面持ちでマクベスを見る。
「え? 何でベッドローリングしちゃダメなの的な顔してるんですか。だって、ステラリア様との行き違いも解消されて、お互いラブラブなんですから、このまま結婚の流れになるでしょう、普通。もしかして、結婚してもベッドローリングするつもりだったんですか主。うっそでしょ、ステラリア様のいるところでベッドローリングするおつもりですか!?」
「だって、これは俺の日課であり楽しみであり、ステラリアに対する愛のパッションの炸裂で……そうだ、ベッドローリング部屋を作ろう」
「ベッドローリング部屋!? いやいやいやいや、名案みたいにぽんと手を打たないでくださいね!? そういうのは、きちんと本人に炸裂させてくださいって何度言えば!?」
「もちろん、頑張って直接伝えていくつもりだが……ステラリアと結婚……ラブラブ……」
「そこで照れないで!? 自分でも結婚しよとか言ってたくせに!」
「まあ、それはおいおい考えるとして……」
「くそう、この主、本当にマイペースだな!?」
レイルはのそりとベッドから立ち上がり、ソファへと腰掛ける。マクベスの用意したハーブティーを口にして喉を潤して、優雅な仕草でソーサーに戻す。マクベスの淹れる茶は、体調等を考慮しブレンドからこだわっていて、きっちりレイル好みに調整されている。
一息ついたレイルは、眼鏡のブリッジを押し上げ、ゆるりと膝に肘をついて指を組んだ。ランプの光を反射して、レイルの眼鏡がきらりと輝く。
「ところで、だ。マクベス」
「何でしょう」
「お前がジャスミン嬢とこっそり密会しつつ、俺の情報の受け渡しをしていたと見受けるが……」
「あ、その場にステラリア様はいらっしゃいませんからね、あらかじめ言っておきますが!! 絶対に誤解は! なさらぬよう!! お願いします!!!」
「あ、はい」
この間、ステラリアのお菓子絡みで酷く大人げない態度を取ってしまったためか、マクベスには今でも怯えられている。そのせいか、きっちり先手を打たれた。
仕切り直しとばかりにレイルはこほんと咳ばらいをすると、若干歯切れ悪く本題を呟いた。
「…………………………どうだったのか?」
「はい? 何と?」
「だ、だからっ! 俺の情報を耳にしたステラの反応は、どうだったのかと……ジャスミン嬢から聞いては……」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「……………………ああ、なるほど」
「くっ……」
にっこりと唇を三日月型に緩めて、マクベスは至極愉しそうだ。ひやかしてきそうな雰囲気が満々だ。いやに気まずくなって、レイルはぐっと唇を引き結ぶ。
だが、揶揄いもやむなし。羞恥心が湧き上がるものの、背に腹は変えられない。
だって、ステラリアがどう感じていたのか、聞きたいではないか。
「もう真夜中でございますし、主これ以上興奮したらまずいでしょうし、すべてをお伝えするには時間に限りがございますが、それはそれはステラリア様は喜びに頬を染め、あの時のレイル様の態度は、実はこういうおつもりだったのだとお伝えすれば、常に一喜一憂、恥ずかしくなってその場に蹲ってしまったりと、毎回天にも昇る夢心地でいらっしゃるとジャスミン嬢が」
「……っは」
「ちょ、レイル様!?」
突如額を押さえがくりと身を前方に屈めたレイルに、マクベスは焦って駆け寄り、膝をついて様子を伺う。
彼は、小刻みに身を震わせていた。
「お、俺の話をけなげに聞きたがるステラ、可愛いかよ……!」
「感動に打ち震えていただけだった……!」
「俺の言葉を伝え聞いて赤くなるステラ、切実に見たかった……! 絶対可愛い! くっ、ジャスミン嬢が羨ましいな。嫉妬してしまいそうだ! ああ、転がりたい!! 俺は今、猛烈にベッドローリングしたい!」
「いや、さすがにそろそろ湯を浴びて寝てくださいよ、寝かせて……」
真顔のマクベスに諭されて、レイルもさすがに怯んだ。
「あ、ああ。そうだな……。すまない。だが、今後もステラの反応は、包み隠さず俺に全部伝えて欲しい……いいな」
「……んんん?」
マクベスが、胡乱げに首を傾げた。
それはつまり、レイル公認で情報の横流しをしろということで。
更には、レイルのベッドローリングや、いささかわかりづらい言動に対する裏付けやらをステラリアに伝え、その反応をジャスミン経由でマクベスに拾って来いという命なわけで。
「直接ステラリア様とやり取りすればいいものを……! もう、面倒くさいなあ、この人!!」
「この俺が、そんなすぐ開き直ってスマートにステラとイチャイチャできるわけないだろうが!!」
「胸を張って言うことじゃないですからね、主!!」
ステラリアを拗らせて10年選手である。
真夜中のイングラム侯爵邸の静寂に、マクベスの切実な叫びがこだました。
「……というわけなんですよ。いやはや、参りましたね……」
「ふふふふふっ、まさかの展開ですね。もう、二人はとっとと結婚してしまったほうがよろしいのでは?」
「同感です」
「破れ鍋に綴じ蓋とでもいいますか……」
「本当、お似合いのお二人ですねぇ……」
マクベスとジャスミンは、すっかり恒例の密会――最早互いの主公認となってしまったので、密会も何もないのだが――で、膝を突き合わせ苦笑する。
その後、何だかんだ結婚するまで続くこの密会(密会ではない)で、マクベスはことあるごとにジャスミンと、お互いの主の愛すべき奥手さを存分に語り合うのだった。
次はあの二人のお話の予定です。
少々立て込んでいるのですが、週末くらいにはなんとかお届けできれば…!
お待ちいただけると嬉しいです。
また、次回のお話にしつかりしたキス表現を入れたいため、念のため次回投稿時に年齢制限をなしからR15に引き上げさせていただきたいと思います。申し訳ありませんがご了承いただけますと幸いです。




