27.面倒くさい人① レイル
園遊会後の夜のお話です
ステラリアを伯爵邸まで送った後、レイルはマクベスと共に王宮にとって返した。悲しいかな、諸悪の根源や関係者をただ捕まえて、めでたしめでたしというわけにはいかないのが現実だ。
クリストファーを筆頭とした魅了魔法対策本部の手で、次々と尋問や調書の作成を行っていく。とにかく魅了魔法にかかっていた貴族子息が多く手続きは煩雑となり、身柄の引き渡しだの何だので、王宮のあちこちの部署は突然の事態に混迷を極めた。
そんな仕事からレイルがようやく解放され、自宅にたどり着く頃には、すっかり夜も更けていた。
学生が起こしたこととはいえ、この比較的規模の大きな封印指定魔法による事件の処理が、たかが半日程度で終わるわけがない。王宮に勤める人員の疲労と労働時間を見かねて、クリストファーが一旦解散を言い渡したから帰宅できたのである。
明日も学園側と王宮側に分かれ、粛々と対応を行う手はずになっている。
いつもの通りジャケットやタイを緩めつつ、レイルはベッドの上に腰かけてため息をついた。
「はあ、夕食を食いっぱぐれたな……」
「さすがに忙しかったですから、仕方ありませんね。レイル様、お疲れ様でございました。何か軽いものでも用意させますか?」
「いや、いい。こんな時間だ。朝早い料理長をわざわざ起こすのも忍びない。それより、マクベス」
「はい?」
「お前、ステラに俺の情報を流していたとか?」
ぎくり、とマクベスの身体が強張った。
が、すぐに表情を引き締め、その場に膝を付いた彼は頭を垂れた。
「主を差し置いて、差し出がましい真似をいたしました。私の処分はいかようにも」
「はぁ……。変に言い訳をしようものなら、首でも切ってやろうかと思ったが……できた従者だよ、お前は。ステラに何を話したのか詳しくは知らないが、お前が俺の不利になることを言うはずもないのはわかっている。それに、ステラからも、俺たちの立役者はマクベスだと取りなされた」
「主とステラリア様の慈悲に、最大限の感謝を」
澄ました声音で応じたマクベスだったが、俯きながら密かに、(ひ、ひええええええ、あっぶねええええええ……!)とだらだら冷や汗を垂れ流し心臓をバクバクさせていたのは、幸いにしてレイルからは見えなかった。
「まあ、元はと言えば、俺が現状に甘えていたせいだからな。お前にも苦労をかけた。何より、ステラに不安を与えていた自分に、腹が立って仕方がない」
「ステラリア様と、きっちりお話をされたようで安心いたしました。園遊会の現場で、とうとう主が本心を告げられた!と、このマクベス、歓喜に浮足立って仕方ありませんでしたから。あの時のレイル様は、普段のヘタレっぷりはどこにいったとばかりに凛々しく格好良く決められて……」
「ヘタレ言うな……殿下の勢いに引っ張られたのもあるが、ステラへの侮辱は許されることではない。ステラは、器の大きい素晴らしい女性だ。俺のベッドローリングを見ても、引かないどころか、本心が聞けて嬉しい、俺を可愛いなどと言ってのける包容力がある。慈愛の塊か……? まさに天から地上に舞い降りた天使」
「いやー、本当に主は素敵なお方と巡り合えましたね」
「当然だ! ステラは俺の運命だからな!」
レイルは、座っていたベッドに背からぱたりと倒れ込んだ。スプリングのきいた最高級のベッドは、最早相棒とも呼ぶべき存在。優しく逞しく心地よく、全身を支え包み込んでくれる。
そのまま、身体を左右に揺らし、勢いをつけて体勢を整えると、レイルはごろんごろんと盛大に転がり始めた。慣れたものである。
「はああああ、ステラが本当に可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛い……!」
「未来の宰相の語彙力ェ……」
「語彙が消失してしまうほどに可愛いということだ。そもそも、ステラの愛らしさは、この世の言葉で表現しつくせるわけがないんだ。大体、何故仕事なんかがあったんだ、それどころじゃないんだよっていう!! 俺に抱き着いてきたときは、もう本当にどうしてくれようかと……トキメキでステラに殺されるかと……。どこもかしこも柔らかくて、いい匂いがして、壊してしまいそうで……でも、ずっと触れていたくなる。そんな蠱惑的な引力に逆らえるか、否……! ああもう、もっとじっくり堪能したかった……それどころじゃなかったけど。そんなステラが、俺のことを、好きだと、大好きだと、至極嬉しそうに愛しさが溢れんばかりの表情で、天上の音楽のような声で伝えて……ああああああっっっっ!!(思い起こしてめちゃくちゃ噛み締めながらじたばたしている。この間約5分)。……ふう、脳内ステラリア美術館の正面を堂々飾る世界一の愛らしさは眼に焼き付いているぞ……生きててよかった……楽園はここにあった! 俺も、ステラが大大大好きだ……! おお、神よ、感謝を捧げます! はぁ……不愉快なこともあったが、今日はステラが俺に好きだと伝えてくれた記念日だ。小さい頃にも時折言ってくれていたが、想いを確認し合っての告白は感動もひとしおだな……うん、来年から侯爵領でもこの日を祭日にして、盛大に祝わねば……!」
「え、つまりステラリア様感謝祭的な!? どんな記念日ですか、領民絶対ポカーンですからやめてください」
「チッ……絶対素晴らしい祝いにするのに……こう、花火とか上げたり……」
「舌打ちしない。そういうのは、二人きりで祝うものですよ、主」
「ふ、二人きり……そ、そうか、そうだな………」
(変な祭を実装されなくてよかった……)
仕事で身体は疲弊しているはずなのに、精神はこれでもかというほどに冴え渡っている。右へ左へベッドの上でころころと身を捩るたびステラリアを思えば、レイルの身体は多幸感に包まれていく。胸がぽかぽかとあたたかい。
ステラリアだけなのだ。こんなにもレイルを幸せな気持ちにしてくれるのは。
続きは明日の同じくらいの時間に投稿します




