⒐秋森朋花と、世話焼き係。
(やけに仲がいいのね……)
おととい初めて会ったばかりなのよね、あの二人。
とてもそうは思えない音海さんと来栖君の雰囲気が気に入らない。
なんでもパーフェクトな学級委員の私を差し置いて、普通だったらあり得ないでしょう?
昨日も連絡先を私からわざわざ渡してあげたのに、まったく音沙汰ないってどういう事?
他の男子だったら無視するなんて考えられないでしょ?
秒で連絡来るはずよ。
彼はまさしく完璧な男性。
私みたいな家柄も良くて、お金持ちで、容姿端麗、成績も上位の女性が彼にお似合いなのは間違いないわ。
更に彼との運命を予知するような出来事が……!
私のパパと彼のパパがまさか大学時代の友達だったなんて、来栖君はまだ聞いてないのかしら。
始業式の日、たまたまパパから私と同じ歳の息子さんがいる『来栖』って人とひさびさに食事に行くって聞いて、まさかとは思ったけど……
私も同席したいって、一か八かで言ってみて正解だったわ。
詳しく聞いたら同じ学校内で同じクラスだって言うじゃない。
フルネームで名前を聞いて確信したわ。
本当に私たちは赤い糸で繋がっているって!
すぐさま私は彼と仲良くしたいって事を来栖君のパパに伝えて連絡先を教えてくれる様に頼んだのだけれど、やっぱり本人の許可がいるって、いまだ保留になってるの。
私が自分の連絡先を教えても無視されているのに、ゲットできるかしら……
このままじゃ、あのなんの取り柄もない根暗な音海さんとどんどん仲良くなっちゃう!
一体何が気に入らないっていうのよ?
私からは結構アプローチはしているつもりだけど……
スマホがぶるっと振動する。
(ヤスからだわ)
『お父様から来栖様の連絡先をお嬢様にお伝えする様にとの事でしたので急いでお帰りください』
やったわ!!
結局教えてくれたじゃない!
なんだかんだでやっぱり私の事気になってたのね!
ちなみにヤスは私とパパのお世話係。
なんでもいう事聞いてくれる執事みたいな人。
帰ったらすぐに来栖君の情報収集やらせなきゃだわ!
何としてでもデートまで漕ぎ着けてやるんだから!
◆◇
(あぁ、憂鬱がまた増えたな)
朋花お嬢様にお仕えして早10年。
確かお嬢様が6歳で、僕が16歳だった頃。
両親を早くに亡くして高校へも行けずに親戚をたらい回しにされていた頃、彼女のお父様である勇様に飲食店のアルバイト先にお客様として来ていただいて、僕の身の上話に同情したと拾ってくださった。
自分の息子の様に良くしていただいて、大学まで出して下さって本当に感謝してもしきれない。
娘の朋花お嬢様がまだ3歳くらいの頃、お母様を亡くされたそうで、たくさんのベビーシッターや、お手伝いをつけてみたものの、女性というだけで一向に懐こうとせず、同じ屋敷に住んでいた僕だけには唯一笑顔で心を開いてくれていた。
勇様は、余程僕を信頼して下さっていたのか、彼女の世話役をしてもらえないかと頭を下げられて戸惑ってしまったが、元々良く遊んであげたりしていたし、勇様に少しでも恩返しが出来ればと、喜んでお引き受けしたものの……
年々酷くなる一方のワガママっぷりに、最近僕もお手上げになってきている。
静かにおしとやかにしていれば、こんな素敵な女性は他にいないだろうって思うほど完璧なのに。
とにかく性格が捻くれまくっているのだ。
昨日おとといと、彼女の口から『来栖』という転校生の話が頻繁に出るようになり、どうも嫌な予感が止まらない。
連絡先を手に入れた後、一体今度は何をするおつもりなのだろうか……
そんな事を考えていると早速お嬢様から呼び出しだ。
「ヤス! 早くよこしなさい!」
ただいまの挨拶もなしに両手を出して待っている。
「お帰りなさいませ。こちらですね」
メッセージアプリのIDと電話番号が書かれたメモを僕の手からふんだくり、二階へと駆け上がっていく。
「朋花お嬢様! きちんと手洗いうがいはしてくださいね!」
急いで振り返って声をかけた。
僕の声かけは完全に無視して返ってきたのは……
「ヤス! 来栖君と音海雫について、できる限り調べて教えてちょうだい! あの二人、何か怪しいのよ」
ほら来た。
予想通り。
あぁ……面倒だ。