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33.ヤスの企み。

 どのくらいあの場所に二人で抱き合っていただろう。

 小さい頃はよく抱っこしたり、おんぶしたり手を繋いだりして差し上げていたが、こんなに距離が近くなったのは本当に久しぶりだった。


 今でも身体に彼女の温もりが残っている気がする。

 そっと頭を撫でた時に柔らかかった髪の感触を思い出しながら右手を見つめた。

 助手席に座るお嬢様が別人に感じてしまう自分は何なんだろう?

 そんな心境の変化に戸惑いながらも、助さんとここねさんの事が気になり話を斬り込んでいく。


「さて、何があったのかお話しいただけますか?」

 外があまりにも寒すぎたため早々車に戻ってきた。

 エンジンをかけて途中の自販機で買ってきたホットミルクティーを渡す。


『ありがとう』と僕の目を見る事なく受け取り重たい口を開いた。


「文化祭で……お友達が軽音部で歌うんだけど……私と一緒に一曲出演するフリして、事前にお手伝いをお願いするって名目で呼び出しておいた音海さんと私が入れ替わって、客席最前列に招待していた来栖君の前で恥をかかせてやろうと思って……」


 モジモジと言いづらそうに話す。

 正直、こんなお嬢様を見るのは初めてだ。

 いつも凛としてるか、怒っているかのどちらかだから、こんな弱って自分の恥を曝け出しているところを見るとよっぽど何か後悔されているのだろう。


 そもそも音海様はとてもお歌はお上手だから、恥どころかファンクラブでもできてしまうんじゃなかろうか。


「軽音部のお友達は相星様ですか?」

「えぇ」


 幼馴染か……

 調べによるとだいぶ相星様もお上手らしいから、この作戦が上手くいってしまったら音海、相星コンビがセットで人気が出てしまう。

 さらに歌うまカップルなんて呼ばれてしまって、来栖様との破局を迎えかねない。

 助さん、ここねさん大ファンの僕からしたらあるまじき事だ。

 せっかく現実世界でようやく幸せに結ばれようとしているのに。

 絶対になんとかしなければ。


 そうだ……!


「お嬢様、私も応援させていただきます」

「でも、私……今どうしたらいいのか分からなくなってしまったのよ……。音海さんは嫌いだし、来栖君の事は……多分好きだけど……こんな事した後で私、きっと虚しさだけが残ってしまいそうで……」


 何かしらお嬢様の心に動きがあるのは間違いない。


「多分……? 好きなのですか? だったらその気持ちもはっきりさせましょう」

「はっきり? 出来るかしら……」

「もちろん。お嬢様の本当の気持ちの在処が判明しても、このヤスがきちんとフォローさせていただきますから」


 きっとお嬢様は素敵な女性になられる。

 今、これだけ素直に自分のお気持ちと向き合っているのだから。

 少し罪悪感はあるものの、うまく利用すればここねさんと助さんの仲の橋渡しも出来そうだし、この作戦、利用するしかない。


 不安げに見つめるお嬢様の頭を撫でた。

「私はお嬢様を小さな頃からずっと見ているんですよ。どんな結果になろうとも、このヤスが全力でフォローさせていただきますから!」

 大きく胸を叩いて見せる。


「ヤス……」

「お嬢様、お疲れでしょうからもうお休みになってください。屋敷に着きましたらお声がけいたしますので」

「そうね……少し休ませていただくわ」

 そう言いながら少し頬に赤みを取り戻したお嬢様は、静かに目を閉じた。

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