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30.秋森朋花お嬢様、動き出す。

「秋森さん、聞いた? 来栖君と音海さんのこと」


 朝一番に怒りと興奮に翻弄されながら駆け寄ってきた、私を慕っている茉莉花というお友達の口から飛び出したのは、来栖君と音海さんが付き合ってるっていう信じ難い事実だった。


「なんであの二人なんでしょうね? どう見たって釣り合わないのに」

 噂があっという間に広まったのか、教室の中のそこかしこでザワついている。


「きっと何か事情があるはずよ。彼のように完璧な男性がなんの取り柄もない音海さんの事なんか好きになるはずないもの」

 私は思わず手の中にあった宿題のプリントをくしゃっと握りつぶす。


「……ま、まぁ、きっと今だけですよね。続くはずないもの」

 一歩後退りをしながら私に恐れ慄く茉莉花の様子に気付きつつも、自分を取り繕う余裕すら失っていたのかもしれない。


 誰も中に入ることのできないほどの仲良しな空気を放ちながら歓談しているあの二人の姿を遠目で見ていたら、背中を芋虫が這い回るようなゾワゾワ感に襲われた。


「ごめんなさい、なんか気分が悪くなってきたわ……」

 吐き気と共に眩暈まで……

 居た堪れず自分の意思なんか無視して足が勝手に保健室へと走り出していた。



 ◆◇



「あらあら、どうしたの? 秋森さんがここに来るなんて珍しいわね」

 顔立ちは整っているが千里眼を持ち合わせているような奥深い色した瞳の保健師にじっと見られた私は、見透かされるのを恐れてたまらず顔を背けた。


「ちょっと具合悪くて……」

 俯きながら丸椅子に腰を落とす。


「そうね、顔色悪いし、少し休んでいった方が良さそうね」

 先生からハイと体温計を渡され大人しく測っていた時だった。


「失礼します〜」

 どこか聞き覚えのある声だと思って顔を上げると、指先をハンカチで押さえて顔を歪ませている相星君の姿があった。


「どうしたの?」

 保健の先生が入口にいた彼に近寄り、指の状態を確認している。

「美術の時間に彫刻刀で切っちゃって。マジ痛くて死にそう」

「大袈裟ね、全く」

 ふふふと笑いながら彼の指を強く握って止血する。


「ここじゃなんだから中に入っていいわよ。今日はおサボリじゃないみたいだしね」

「なんだよ、いつもサボってるみたいにさぁ。いつも寝不足で具合が悪いの」

 そんな会話をしながら私のそばに近づいてきた。


「先客がいると思ったら……なんだ、アンタか」

 相星君はがっかりした表情で一瞥し私の存在を確認したようだった。

「あら二人とも知り合いなの?」

 消毒綿をピンセットで掴みぐいぐいと相星君の傷口に押し当てる。


「イテテ! もっと優しくやってくださいよ〜」

「保健室がイイところだって味しめられても困るからね。今日は具合の悪い秋森さんもいるから大人しくしてもらわないと」


 そんなやりとりをすぐ横で聞きつつ、何も考えたくない私はぼーっと二人の様子をただ見ていた時。

 ふと腕時計に目をやった保健の先生は急に青ざめる。


「あらもうこんな時間! ちょっと職員室に用事があるから15分くらい席外すわね。相星君は落ち着いたらそこにある絆創膏を貼って授業に戻ること。大した事なさそうだしね。秋森さんは熱もないみたいだし、奥のベットで一時間目は休んでなさい」

 そう言い放ちながら慌てた様子で保健室を飛び出していった。


「なんだよ、ほったらかしかよ。……まぁいいや、ギリギリまでサボってこ」

 ポケットからスマホを取り出しイヤホンを耳に押し込んだと思えば、ガシャガシャ音漏れする程の音量で音楽を聞き出した。


「ねぇ!」

 注意しようと声かけても全く気がつかない。


 あぁ、面倒くさい。

 ゆっくりと立ち上がって彼の肩を思いっきり引っ叩きイヤホンを引っ張った。


「イダッ! 何すんだよ!」

 耳を押さえながら噛みついてくる。

「うるさいって言ってんのよ! 保健室なんだから静かにして」


 なんだか頭まで痛くなってきたわ。

 はぁとため息をついて相星君に背を向けた。


「何そんなにイラついてんだよ。失恋でもしたのか?」

 嫌味たっぷりなその言葉にプチっと切れた。


「アンタだっておんなじようなもんでしょ? 幼馴染にイケメンの彼氏ができてよかったわね」

 フンと鼻を鳴らしザマアミロと思いっきり冷ややかな視線を送ってやった。


「は? 雫の事? 何言ってんの?」

「まさかまだご存じないの? 幼馴染なのに何にも知らないのね」

 クククと笑ってやったがみるみる表情が曇る様に流石の私も言葉が詰まった。


「……ウソ……だろ?」

「こっちだってウソだって思いたいわよ」


 なんとなくは気がついてた。

 来栖君のと音海さんがいい雰囲気なのは。

 これ以上仲が進行しないように努力はしてたつもりだったのに。

 実際『付き合ってる』って言葉を突きつけられたら、何もできない。

 どうしたらいいのか分からなくなって、目の前が真っ暗になって……

 相星君は正直大っ嫌いだけど、きっと今は私と同じ心境なのかもしれない。


「相星君も好きだったんでしょ? 音海さんの事」

「は? んなわけねぇし」

 強がってる口元が震えてるわよ?


「今更隠す事ないじゃない。単細胞そうなアンタの気持ちなんて大体想像つくわよ。カラオケの時だって散々大好きオーラ放ってたじゃない」

「うるせぇ……お前本性出たな」

 蚊の鳴くような声。

 結構ダメージ大きいのね。


「アンタに取り繕ってもなんの徳もないしね」

 相星君にどう思われようがどうだっていい。

 それよりも……


「あの二人絶対釣り合わないわよ。来栖君のにピッタリなのは明らかに私」

「あんな顔だけいい転校生に雫はやらない。俺の方が絶対雫の事たくさん知ってるし」


 ほぼ同時につぶやいた私たちは目がバチッと合った。


「……ねぇ、私に協力しない?」

 今の相星君ならきっと最強のコンビが組めるわ。

 あの二人の中を破壊するためのね……


「協力? なんの?」

「全員が幸せになるためのいい方法があるのよ……」


 私たちは今まで離れていた距離を一気に縮めて、彼の隣に座った私は耳元に作戦を囁いた。

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