26.ヤス、朋花お嬢様の乱入に慌てる。
(なんて美しいのだ……!)
ゲーセンの奥にいた来栖様と音海様の死角にあるUFOキャッチャーの影から耳を澄ませて、心の奥に潜んでいた想いを口に出している二人の姿を見ながら、恥ずかしくも涙が止まらない。
いっその事こと僕がここから出て行って、真実を教えてあげたいくらいだ。
あなたはここねさんで、君は助さんだよって。
もう既に両想いなんだよ、お二人は……
「ヤス!! こんなところで何してんのよ」
聞き覚えのある声に突然美しい映画の世界から現実に引き戻された。
「朋花お嬢様、どうしてここに!?」
涙でぐしょぐしょの僕を見ながら呆れ顔。
「あなたについてるGPSを辿ってきたのよ。今日は時間が出来たから私も調査に同行しようかと思って」
腕組みをしながら、フンと鼻を鳴らす。
「いやいや、今日の調査はもう終わりで……」
まずい、お二人のあんな姿をお嬢様に見られたら激高するに違いない!
「いいからその顔どうにかしなさいよ」
ハイとレースのハンカチが差し出された。
「お嬢様……」
たまにこういう自然な優しさも見せてくれる。
だからこそ、どれだけ虐げられても突き放せない、自分の情けなさ。
「ちょっと、私のハンカチで鼻までかまないでよ」
呆れ笑いをしながらも暖かい視線。
これがもしかしたら朋花お嬢様の素顔なのかもと思ったりもする。
「お嬢様、今日はお二人を見失ってしまい撤退しようかと思っていたところで」
この先お二人はどうお過ごしになるのか気にはなるが……今はそう言うしかないだろう。
「やっぱりあの二人、一緒にいたのね?」
キッと顔つきが変わる。
「まぁ、お約束されてたとかではなくて、街中でばったり会ったようなご様子でしたが……」
「そんな事関係ないわよ! あの二人が今一緒にいるのは事実なんでしょ?」
肩を小刻みに振るわせる。
どうしてこんな風になってしまったんだろう。
さっきみたいに、優しい笑顔を見せてくださる一面もちゃんとあるのに。
「お嬢様、これやりません?」
とにかく来栖様と音海様から距離を取ろうと、少し離れた場所のゲーム機を指差す。
「やるわけないでしょ。あの二人を探さなきゃならないんだから」
「まぁまぁ、たまにはいいじゃないですか。そんな親密な様子でもありませんでしたし、もうお二人とも解散してますよ」
嘘八百だがやむを得ない。
とにかくお嬢様の気を逸らさねば。
「どうしてそんなこと言えるのよ? 私はこの目で別れたところを見ないと納得できないわ」
キョロキョロと周りを見渡し始めた。
……ったく面倒くさいな。
「お願いします! 私もたまにはお嬢様とこう言った場所に来てみたいと前々から思っておりまして、今日まさにその夢が叶うかもと、実はドキドキしてるんです。」
ドキドキしているのは二人が見つけられないかどうかにだが。
「ドキドキ……? ヤスもそんな感情になるの?」
まさかちょっと頬を赤らめていらっしゃる?
見間違いだな、さっきの怒りの名残だろう。
「え? えぇ、まぁ」
申し訳ございません、ドキドキはお嬢様に向けたものではございませんが……
「……仕方がないわね。少しだけよ」
「ありがとうございます!」
なんだ?
思ったより素直だな。
こちらとしては都合がいいが……
「このぬいぐるみを取る機械、私やり方分からないの。ヤス、教えてちょうだい」
くるっと後ろに向き直して、さっき僕が指差したゲーム機へと歩き出す。
「もちろんです」
素直すぎて不意打ちを食らった感じだが……
まぁ、いいだろう。
最大のピンチは免れた。
とはいえ、あの二人がこの店を出て行くまでは気が抜けないがな……




