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24.来栖彗、雫とここねの狭間に混乱の時。

『歌のプレゼント、すごく嬉しかった。ありがとう! せっかくお祝いしてもらった直後で申し訳ないんだけど、忙しくなるのでしばらく、はぴそんお休みします』


 飛び込んできた言葉に俺は目を疑った。

 どうしてこうなってしまったのか……。


 以前ここねさんに誕生日を聞いて、俺はずっと歌のプレゼントとをしようと、密かに用意していた。

 でも、セルコラだとどうもパッとしなくて、最近よく絡んでくれる歌うまの女の子、カンナさんにお願いし、密かに彼女のコメント欄で打ち合わせをして、結構手の込んだバースデーソングが完成したと思ったんだが……。


(喜んでもらえたん……だよな……)

 一抹の不安がよぎる。

 俺がはぴそんを始めてから1日たりとも欠かさず投稿してきたここねさんがお休み……

 しかもこんな急に。


 何かがっかりさせてしまったんだろうか?

 仕上がりは上出来だと思っていたが……

 そりゃもちろん、ここねさんとのコラボには敵わないけど。


 結局朝まで眠れず……目が覚めた時は昼過ぎだった。


 はぴそんを開いてもあれからここねさんの気配はない。

(本当に休むのか……? 一体いつまで……)


 不安という大きな鞠が俺の胸の中でドクンドクンと音を立てながら跳ね回る。


 息苦しさは増すばかりで、いてもたってもいられなくて家を出た。

 何をするわけでもないが、じっとしているのが苦痛だった。




 街中に行くと、休日だからかショッピング街は大賑わいだ。

 鎮まりかえった心の中を行き交う人々のざわめきや車のエンジン音が埋めてくいれる。


 どこまでも続く地面とそれを踏み締める自分の足先を睨みながら、目的もなく前に進んだ。

 交差点で立ち止まり、ふと顔を上げた時。


 それほど遠くない目の前に、音海とカラオケで一緒だった幼馴染が楽しそうに会話をしていた。


 信号が変わりこちらに向かってくる二人を目で追い、俺は咄嗟に木の影にかくれた。


「そんなプレゼントなんていいのに」

「昔は毎年ちゃんと上げてただろ? まぁ、気持ちだからさ」

「そう?」

 木の影に隠れた俺の目の前を気づくこともなく通り過ぎ、音海は嬉しそうに相星をみつめてる。


「そうだ! 好きなキャラの限定ぬいぐるみ、昨日発売だったんだけど見に行っていい?」

「おいおい、予算内で買えるんだろうな?」

「見るだけでいいの。プレゼントはランチでいいよ。そこの角のハンバーガー屋美味しいし」

「ダメダメ、そんなの! じゃ、俺が選ぶかな、今年は」

 腕組みしながら空を見上げて幸せそうな顔をしている相星が妙に憎たらしく思えた。


 気になってコソコソ二人の姿を追う自分。

 なんでこんな惨めな気持ちになってるんだろう、俺。


「そのスカート可愛いな。似合ってる」

「でしょ! 実はお母さんからのプレゼントなの」

「へぇ……やっぱり美枝さんセンスいいよな」

「お母さんに言ったらよろこぶわ」


 楽しそうな会話。

 あんなに一生懸命笑って……

 あれが音海の素の姿なのか?


 いつもはもっと顰めっ面で、たまにフニャッと笑って、俺を見て心配そうな顔したり、不貞腐れたり……

 あいつといる時は、そうやっていつも全開の笑顔でいるんだな……


「俺らもついに16歳か……。なんかあっという間に二十歳とかになりそうだよな」

「そうだね。でも桔平は結構変わったじゃん。私は相変わらずだけど」

「雫も変わったよ。女っぽくなった」

「何それ、どういう意味?」

「子供から女性っぽくなったなぁって事」


 あいつは俺の知らない音海をたくさん知っている。

 当たり前だよな。

 幼馴染なんだから。


 俺には……一体誰が側にいてくれたんだろう。

 振り返れば、結局いつも一人だったな。

 ……そうなる事を俺が望んでいたんだが。


「とにかく、誕生日おめでとう! これからもよろしくな」

「あはは、なんか照れちゃう。ありがとうね」

「礼なんて言うなよ。今日朝迎えに行った時死にそうな顔してたから随分心配したんだぜ?」

「そ、そう……かな? 気のせいだよ、きっと」


 ……誕生日……?!

 音海が??


 今日って、ここねさんと同じ……

 これって偶然か??


「私生まれて初めて失恋してさ。いくらネット上の事とはいえ、だいぶへこんでた」

「あ? ネット? あの例のカラオケアプリ?」


 ちょうど大きなトラックが横切り、二人の会話がよく聞き取れない。

 カラオケアプリ?

 それがなんだって??


 胸の中がざわざわした。


 待て待て……

 やっぱりここねさんは音海なのか……?


「ちょっと待ってて、そこのトイレ行ってくる」

「うん」

 相星は近くの建物に音海を残して駆け込んだ。


 スマホを取り出した音海はふぅと大きくため息をつく。

 画面をじっと見つめて……涙?

 どん底にいるような顔色……。

 あんな音海、初めて見た。


 さっきの笑顔は幻だったかのように……


 数分して相星が戻ってきた。


「ごめん、めちゃくちゃトイレ混んでたわ」

「人多いもんね」

 また何事もなかったかのようにニコッと笑う。


 どうしたらいい……?

 俺は一体どうしたら……


 頭の中では急に離れていくここねさんの後ろ姿に必死で手を伸ばしながら、目の前にいた音海からこぼれ落ちた一粒の涙に混乱して……


 身体が勝手に動いたんだ。

 理性の壁をぶち破って。


 俺は猛ダッシュで、相星の隣にいた音海の手を引き、街中を駆け抜けた。

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