18.来栖彗、戸惑う。
(嘘だろ……?)
音海に限って……こんな言い方をしたら失礼かもしれない。
二人の会話は他の部屋から漏れ出してる雑音が大きくてよく聞き取れなかったが、確実に普通の友達じゃないのは一目瞭然だった。
普段、他の男子の前では絶対見せない表情。
(あいつ、俺以外の男の前でもあんな風に笑うんだ……)
何故か心がひゅうと寒くなる。
俺の前だって……笑ってたが、あんなに心許した表情じゃなかった。
一体どう言う関係なんだ?
その前に抱き合ってるのもおかしいだろ?
なんでもない関係なのにハグなんてするか?
俺だったら絶対しない!
(……気になる)
おい、気になるってなんだ?
あまりに予想外な自分の感情についツッコミを入れてしまった。
俺は音海のことそんな目で見てたのか?
心の中にいるのはここねさんだけなはずだろう?
そうだ、あまりの衝撃的な光景に、気持ちが誤作動を起こしてるだけだ。
自分の中で押し問答が続く。
会話を必死で聞こうとするが聞こえないもどかしさ。
(なんなんだ、この気持ちは……)
どうしても否定しきれない想いを素直に認めそうになった時だった。
いきなりあの男が通る声できよしこの夜を歌い出して我に返る。
ハハ……あれは目立ちたくない音海にとっちゃ迷惑行為だろう。
なんだかいい気味だ、なんて思ってたんだ。
ふわりとあまりにも自然に透明感溢れるハモリが現れた。
ほんの1、2秒で全身に鳥肌が立つ。
あの二人の周辺の空気が渦になって舞い上がって行くのが見えた気がした。
重なった時の溶け合う感じ、彼女にしか出せない空気感。
(……ここねさん……?)
一瞬本気でそう思った。
いやいや、あるわけない。
たまたまだ。
たまたまに決まってっる!
それなのに、悔しいことに俺の耳が喜んでいるんだ。
まだ聴きたい、もっと聴きたい!
そうこう戸惑い、興奮しているうちに歌声は止まり、残響が耳に名残惜しくこだまする。
……あんなにも求めていた彼女の声が、今確かにそこに……
(んなわけない!)
頭の中のもう一人の自分が大声を張り上げる。
全力で自分の考えを否定した。
音海がここねさんに、似ていただけだろう?
だって、音海、さっきはとんでもなく震えてる歌どころじゃなかった。
あれだけ堂々と、揺るぎない自信に満ち溢れたここねさんの歌を、俺は毎日聴いているんだぞ?
あんな震えたふにゃ声、はぴそんで聴いてる限り絶対想像出来ない。
(やっぱり別人だよな……)
そう頭の中で結論づけた頃、二人は何事もなかったかのように部屋に戻って行く。
(音海……)
でも……やっぱりその音海の後ろ姿を見ていると、無性に心がザワザワと揺れ動くんだ……。
短くてごめんなさい>_<




