14.来栖彗、沼。
『ここね』さんとの交流はとても充実していて、毎日毎日夜になるのが楽しみだ。
進展なんてものはないんだが気になる所が一つ。
最近彼女の人気が鰻登りで、俺の半分くらいだったフォロワーが、今や倍増している。
たくさんの人に彼女の歌声を評価してもらえる事はとっても素晴らしい事だが……
魅力的な歌声のあまり、コラボの申し込みが彼女に殺到していて、俺の順番がなかなか回ってこない。
もちろんコメント欄では毎日絡んでいるものの……
別の男とコラボした歌……素晴らしい……んだが、悔しい!!
妬きもち。
こんな言葉俺には一生関係のない物だって思ってたが。
今、まさにそれだ!
頼む! 他の男と絡まないでくれ!!
って叫びたいのだ。
そんな妬きもちを紛らわすかの如く、音海の幼少時代のお遊戯DVDを見まくっている。
変態??
もうなんとでも言ってくれ!
ここねさんの幼少期……?
なんて思いながらつい見入ってしまう自分を笑ってくれ!
でも仕方ない。
どこにもやり場のないこの想い、どうやって消化しろってんだ?
しかも秋森からのカラオケのお誘いの断りもまだ未完了で悶々としている。
あの電話が確か音海んちに行ってすぐの先週末。
秋森は週明け月曜から毎日俺の所に来て返事を聞かせろと迫ってくる。
もちろん、『やっぱり無理』と何度も答えてはいる。
電話も着信拒否!
父さんにもこの状況は一応連絡してあるが、『行ってやりなさい』の一点張りで頼りにならない。
それにしても、どう断っても秋森には言葉が通じないようで……
『わかった』とその時は空返事するのだが、日付を跨いだらリセットされいて、また同じ事の繰り返し。
秋森、マジで怖すぎる。
そしてとうとう金曜日、カラオケに誘われてるのは明日だ。
いい加減諦めてもらわなきゃと思っていたが……どうも俺の周りがソワソワ。
秋森の取り巻きの女子達が、入れ替わり立ち替わり、『明日楽しみにしてるね』と俺の周辺をうろうろしながらウインクしてくる。
味方を増やせば俺が断れないとでも思ってんのか?
ったく、一体何人引き連れて行くつもりなんだ?
(あぁ、イラつく!!)
自分の席でもがき苦しむ。
隣では、今週、日を重ねる度に俺と対照的に謎に艶々になっていく音海が、今日も両耳ガッツリイヤホンをして俺の存在すらをシャットアウトしている。
俺がDVDをなかなか返さないからついに怒り出したのか?
今週はどうしても休めない予備校の授業もあって一緒にも帰れてない。
つきまといはどうもなくなったと言っていたから、俺はもう不要なのかもしれないが……
あまりにも素っ気なさすぎだろう?
昼休みも忙しいからとさっさと飯食って教室に戻りまたイヤホン。
一体何を聴いているのかって聞いても、『教えなーい』の一点張り。
ここねさんへの悶々としたこの気持ちと、ウザすぎる秋森とその取り巻きの狭間で俺はノイローゼになりそうだ!
唯一味方であるはずの音海も坂野とコソコソしながら俺を突き放しやがって。
悲しいぞ……
「来栖君? そろそろ観念してくださる? みんなあなたの噂を聴いて歌を聴きたがってるのよ」
秋森が俺の机の前で仁王立ち。
俺のカラオケの話、一体どこから漏れたんだ?
東京に来てからは、絶対に誰とも行かないって決めてたのに。
「俺は行かないからな!」
音海に助けを求めるが如く隣にチラッと目をやる。
視界に入ってきたのはイヤホンをしながら真剣な顔して頭を揺らしてる姿。
そして、俺のことは知ってか知らぬか、当然のように無視。
「明日13時に駅前ね! クラスの女子五人呼んだから、来栖君のお友達も呼んでいいわよ」
やっぱりな……
二人きりよりはいいか?
いや、どっちにしたって嫌だ!!
「じゃ、音海と坂野を連れてく!」
咄嗟に言ってしまった。
『音海の今の歌を聴いてみるには絶好のチャンスだ!』
実は心の中の悪魔がずっと声を上げていたのは見てみぬふりをしていたんだが……
「ちょっと!! いいの? 雫」
坂野が慌てて音海のイヤホンを両手で耳からスポンとはずす。
「え? 何が?」
素っ頓狂な顔をして驚いた顔をする音海。
「何がじゃないよ! いいの? 秋森さん達にカラオケ誘われて来栖君が雫と私を連れてくって!」
「えぇ???」
悪いな、音海。
俺の代わりに人柱になってくれ。
お前の歌は多分今だって上手いはずだ。
俺はDVDを伊達に観てたわけじゃない。
きっと今でもみんな喜んでくれるくらい歌えるはずだろ?
お前の歌声にも興味深々だし、何より音海が注目されれば、俺はどさくさに紛れて歌わずドロンだ!
「頼む!! 歌わなくていいから!」
いや、歌ってはもらうがな……
「そんな事言われたって……」
急にしょんぼりする音海を見て多少なり申し訳なさもあったが……
背に腹は変えられないんだ!
すまない! 音海!!




